国内

家族の遺体発見のために青年はシュノーケルつけ水に潜る

東北関東大震災では連日死者、行方不明者の数が報じられているが、現地では数字だけでは言い表せない物語がある。本誌記者が見た被災地の実態をレポートする。

* * *
ここは宮城県・仙台市荒浜地区。海岸近くの遺体捜索は津波の恐怖と隣り合わせだ。避難命令が出ると、捜索隊員は高台でしばしの間、待機を余儀なくされる。

そんな時に思い詰めたような表情で、「報道の方ですよね。(津波で大きな被害を受けた岩手県の)陸前高田には行かれたのですか?」と、ウェットスーツ姿にシュノーケルを付けた20代の青年が声を掛けてきた。いまだに海水が引かない若林区荒浜地区では、水中に漂う遺体を回収するために、ボート1艇に5~6人の水難救助隊員が乗り込み、何度もボートから水の中に飛び込んでいる。

記者が「まだ行っていない」と答えると、「そうですか……。陸前高田に両親が住んでいるのですが、連絡が取れません。街は壊滅状態と報じられているのですが、避難した人々がどうしているのかだけでも分かれば……」――そういって顔を曇らせた。

「水の中でご遺体を発見すると、一瞬“父や母もこんな状態で誰かに見つけてもらうのを待っているのか”などと、嫌な考えが頭をよぎることがあるんです」

テレビでは、被災者たちの「早く行方不明の家族を見つけてほしい」という苛立ちが繰り返し報じられる。不明者の捜索に関わる警察官や消防団員の大半は地元出身者だ。救う立場の者が、実は被災者であるケースは数多い。

「もちろん両親のことは気がかりでなりません。でも、私と同じ気持ちで家族の救助を待っている人がここ(若林区)にもたくさんいます。倒壊した家屋の中で、奇跡的に生存している方がいるかもしれない。そんな人を一人でも多く見つけられたら、遠くにいる父と母も助かるのではないか。そんな気持ちで潜っているんです」

消防無線から「退避命令解除」の指示が流れた。ウェットスーツのフードを被り直した青年隊員は、礼儀正しく頭を下げてから現場に走っていった。

※週刊ポスト2011年4月1日号

関連キーワード

トピックス

佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
若隆景
序盤2敗の若隆景「大関獲り」のハードルはどこまで下がる? 協会に影響力残す琴風氏が「私は31勝で上がった」とコメントする理由 ロンドン公演を控え“唯一の希望”に
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン