国内

原発放水自衛官 「終わったらうまいビール飲もうぜ」と鼓舞

「万が一」が頭をかすめる。それでも逃げずに危機に立ち向かった、自衛隊、ハイパーレスキュー、原発作業員たち。いまこのときも現場で奮闘する彼らの姿を紹介しよう。

* * *
「おーい、いまのうちにタバコ吸っておけ」

海上自衛隊の印字が目立つ赤い大型消防車から降りてきた中年の自衛官は、隊員たちにこう呼びかけた。彼らが寄った福島県内のパーキングエリアは、福島第一原発から30キロ圏外にあり、原発事故に対処する自衛官らの中継地点となっていた。若手の隊員たちが後ろでタバコを吸いはじめるなか、隊を率いる幹部は、我々の取材を嫌がるそぶりも見せず、あっさりとこういった。

「明日から原発への放水に入ります。内容は報道されているとおりですよ」

取材した3月20日朝のテレビ・新聞は、福島第一原発に入った自衛隊の消防車が、至近距離から使用済み核燃料プールへ放水する様子を伝えていた。彼らは翌21日よりこの作業を行なう千葉県の部隊だった。普段は航空基地の火災事故などに対処しているという。

「私は48歳で定年間際(彼の定年は54歳)ですが、あとは若い連中です。部隊員は全員志願者です。27人中15人が手を挙げ、そのうち6人が来ました。めちゃくちゃな状況ですが、原発を冷却化させるにはこれしかない、他に選択肢はないと思って志願しました。そうしたら意外と上司が心配してね。しょうがないから、こっちは元気でやっているよと、写真を送っています。

放射能が危険だろうが、原発の冷却作業は誰かがやらないといけない。それが自分に回ってきただけですよ。ウチの部隊は皆がそういう思いだったから、うれしくなった。ほんとうに良い部下ですよ」

そういうと、後ろを振り返り、タバコを吸いながら談笑する隊員たちをちらりと見た。その目は、うっすらとうるんでいた。

「こういうときに上が後ろにいたんではいけないから、私が一番前に行きます。陸海空どの部隊も同じ気持ちだと思いますよ。今は隊員たちと、『終わったらうまいビール飲もうぜ!』と話しています」

後ろに控えた隊員たちは、それぞれ23、27、31歳の若き隊員たちだった。声をかけると、「お~(週刊)ポストか」と笑顔を見せる。タバコを吸いながら談笑する表情に、気負いはまるで見えない。

※週刊ポスト2011年4月8日号

関連記事

トピックス

真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン