国内

イタリア人女性 防護服も着ずに原発20km圏内で犬猫を救出

 福島第一原発事故の影響で、帰国したり、西日本に避難したりする外国人が多いなか、この女性は違った。被災地に取り残された、見ず知らずの人のペットを救うため、放射能汚染も恐れず、福島へと向かったイタリア人女性のイザベラ・ガラオン青木さん(47)。

 イザベラさんは、4年前にペットホテル「アニマルガーデン新潟」を開業。同時に、飼い主がやむを得ない事情で育てられなくなったペットを、空き室を利用して保護する活動を始めた。現在、230匹のペットが保護されており、このうち震災で被害を受けた犬と猫があわせて60匹ほどいるという。

 震災から2週間が過ぎた3月下旬。原発事故による自宅からの避難を余儀なくされた福島の被災者から、イザベラさんの施設に電話がはいった。

「すぐ家に帰れると思って、原発20km圏内にのんちゃん(飼い犬の名前)を残してしまったんです。連れて帰ってとはいいません。もし行く機会があったら、せめて、せめてえさと水だけでも残してきていただけませんか」

 電話の主は泣いていた。イザベラさんは、住所と犬の特徴を飼い主に聞いたが、胸の中では、その犬を救い出す覚悟を決めていた。

「人がいない街で、水も飲めず、えさも食べられずに死んでいく動物たちを思うとかわいそうだし、飼い主さんの気持ちを思うと放っておけません。すぐに仲間のボランティアとふたりで、福島県に向かいました」

 すでにニュースでは被曝の危険性が報じられていた。イザベラさんも現地の放射能汚染の話は知っていたが、防護服は用意しなかった。

「防塵マスクは着けたけど、着ている服を洗えば問題ないだろうと考えて、普段着のまま行きました。きっと、短時間なら大丈夫。それよりも動物たちのほうが心配で…」

 現地には夜到着した。途中の道で立ち入りを規制されるかと思ったが、夜だったためか、誰に止められることもなく、そのまま車で20km圏内にはいることができた。無人の街。暗がりの道路には首輪をして、やせおとろえた犬や猫たちの気配があった。

 教えられた住所に着くと、庭先から「ワン、ワン」とのんちゃんの吠える声が聞こえてきた。足元を懐中電灯で照らしながら、声のするほうに急いだ。やせ細った白い毛の柴犬。飼い主からは、他人にはなつかないと聞かされていたが、鎖を外してやると、急におとなしくなり「クゥーン、クゥーン」と鳴き声を上げた。2週間ぶりに触れあう人のぬくもりを、のんちゃんはうれしがっている様子だった。

「よくがんばったね、のんちゃん。もう大丈夫だからね」。用意していたビーフジャーキーをあげると、あっという間に平らげ、ドライフードもガツガツ食べた。

「ほかにも街では犬2匹と猫1匹を見かけましたが、ひどくやせていました。保護しようとしたけど捕まえられなかったので、えさと水を置いてきました」

 のんちゃんは、現在、新潟で飼い主と再会する日を待っている。

※女性セブン2011年4月28日号

関連キーワード

トピックス

大谷と真美子夫人の出勤ルーティンとは
《真美子さんとの出勤ルーティン》大谷翔平が「10万円前後のセレブ向けベビーカー」を押して球場入りする理由【愛娘とともにリラックス】
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(秋田県上小阿仁村の住居で発見されたクマのおぞましい足跡「全自動さじなげ委員会」提供/PIXTA)
「飼い犬もズタズタに」「車に爪あとがベタベタと…」空腹グマがまたも殺人、遺体から浮かび上がった“激しい殺意”と数日前の“事故の前兆”《岩手県・クマ被害》
NEWSポストセブン
「秋の園遊会」でペールブルーを選ばれた皇后雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《洋装スタイルで魅せた》皇后雅子さま、秋の園遊会でペールブルーのセットアップをお召しに 寒色でもくすみカラーで秋らしさを感じさせるコーデ
NEWSポストセブン
チャリティーバザーを訪問された秋篠宮家・次女の佳子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《4年会えていない姉への思いも?》佳子さま、8年前に小室眞子さんが着用した“お下がり”ワンピで登場 民族衣装のようなデザインにパールをプラスしてエレガントに
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)。千葉のビジネス専門学校へ入学しようと考えていたという
「『彼女がめっちゃ泣いていた』と相談を…」“背が低くておとなしい”浅香真美容疑者(32)と“ハンサムな弟”バダルさん(21)の「破局トラブル」とは《刺されたネパール人の兄が証言》
約2時間30分のインタビューで語り尽くした西岡さん
フジテレビ倍率2500倍、マンション購入6.2億円…異色の経歴を持つ元アナ西岡孝洋が明かす「フジテレビの看板を下ろしたかった」本当のワケ
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)。アルバイトをしながら日本語を学んでいた
「ホテルで胸を…」11歳年上の交際相手女性・浅香真美容疑者(32)に殺害されたバダルさん(21)の“魅力的な素顔”を兄が告白【千葉・ネパール人殺害】
佳子さまの“着帽なし”の装いが物議を醸している(写真/共同通信社)
「マナーとして大丈夫なのか」と心配の声も…佳子さま“脱帽ファッション”に込められた「姉の眞子さんから受け継ぐ」日本の伝統文化への思い
週刊ポスト
医師がおすすめ!ウイルスなどの感染症対策に大切なこととは…?(写真はイメージです)
感染予防の新常識は「のどを制するものが冬を制する」 風邪の季節に注意すべき“のど乾燥スパイラル”とは?
NEWSポストセブン
「秋の園遊会」に出席された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《秋の園遊会》 赤色&花の飾りで“仲良し”コーデ 愛子さまは上品なきれいめスタイル、佳子さまはガーリーなデザイン
NEWSポストセブン
真美子さんが“奥様会”の写真に登場するたびに話題に(Instagram /時事通信フォト)
《ピチピチTシャツをデニムジャケットで覆って》大谷翔平の妻・真美子さん「奥様会」での活動を支える“元モデル先輩ママ” 横並びで笑顔を見せて
NEWSポストセブン
クマによる被害が相次いでいる(左・イメージマート)
《男女4人死傷の“秋田殺人グマ”》被害者には「顔に大きく爪で抉られた痕跡」、「クラクションを鳴らしたら軽トラに突進」目撃者男性を襲った恐怖の一幕
NEWSポストセブン