震災と原発事故によって自粛ムードが日本経済を覆う中、「自分たちが日本を支えなくては」と立ち上がり始めたのが関西経済界だ。被災した工場の代替え生産や復興需要を追い風に浪速の商人たちが今、日本を元気にしようとしている。ジャーナリストの井上久男氏が報告する。
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関西財界の大きなプロジェクトとして、大阪市には「最後の一等地」と呼ばれる旧国鉄の土地だったJR大阪駅北側の「梅田北ヤード」の再開発がある。24ヘクタールのうち7ヘクタールが先行開発され、2009年に開発企業12社が出資して「ナレッジ・キャピタル・マネジメント」を設立。世界から最先端技術や芸術、エンターテインメント関連の施設を誘致する方針だ。しかし、地盤沈下が著しい関西に世界から本当に人材が集まるのかという声も出ていた。ある財界の長老は「震災によって関西の位置づけが見直されているこの時期にテナントなど集客向上のために営業を強化すべきだ」と語る。
朝日新聞社も、発祥の地である大阪の中心部、中之島地区にツインタワーを建設する計画で、新聞事業に代わる収益源を不動産ビジネスに求めているが、「1棟目はすでに建設中だが、2棟目はテナントが埋まらない可能性があったため、建つかどうか雲行きが怪しくなっていた」(関西財界団体の幹部)。しかし、この震災を受け、「海外の大使館や領事館や外資系企業に営業をかけて、こうした『リスク分散需要』を取り込むべき」(朝日関係者)との強気の意見も出始めている。
実際、震災直後、福島原発からの放射能漏れを恐れて海外企業や大使館関係者が関西に一時避難していた。JR大阪駅と一体化しているホテルグランヴィア大阪でも「震災の翌週から、個人で避難してくるお客様と外資系を中心に企業が部屋を一定数確保するケースが増えた」と話す。
こうした「リスク分散需要」は今後、拡大すると見られる。コールセンターやデータセンターを家賃や人件費などの管理コストが安い仙台市など東北地区に置く企業が多かったが、関西への機能分散をNTTなどの通信会社に相談するケースも増しているという。企業が、災害など想定外の事態で肝心な顧客対応機能を失えば死活問題になると感じ始めたからだ。
※SAPIO2011年5月25日号