国際情報

ビンラディン殺害 パキスタン政府に事前通告しないのは当然

 死者約3000人という、未曾有のテロ攻撃をアメリカに仕掛けたウサマ・ビンラディンが、ついに潜伏先のパキスタンで殺害された。しかし、決して手放しで喜べる状況ではない、とジャーナリストの落合信彦氏は言う。

 * * *
 パキスタンの政府に事前通告がなかったことを問題視する声があるが、もし事前に作戦の存在を知らせたりしていたら、ビンラディンは楽々奇襲から逃げおおせていたことだろう。パキスタン政府や同国情報機関ISI(統合情報局)にとっては、ビンラディンは生きたままのほうが好都合だった。ビンラディンが生きていれば、アメリカはアルカイダ掃討作戦の最前線基地となるパキスタンに物心両面での援助を続けるからだ。
 
 今年1月に一人のCIAエージェントがパキスタン国内で発砲事件を起こし、現地当局によって逮捕・起訴された。逮捕された男がCIAであることをリークしたのはISIだったとされている。この事件一つをとっても、ビンラディン殺害を狙うCIAとISIが抜き差しならない関係であることがよくわかる。アメリカが作戦を通告しなかったのは、しごくまっとうな判断だったと言えよう。
 
 とはいえ、決して手放しで喜べる状況ではない。問題は、作戦「完了後」のアメリカ政府の対応にある。今のままでは、折角成功した作戦の成果が水泡に帰すばかりか、状況をさらに悪化させてしまう可能性すらある。

 オバマやホワイトハウス報道官のジェイ・カーニーは、殺害成功後の「説明」に躍起となっている。パキスタンへの主権侵害ではないかという批判や、人権問題として取り上げる国連への弁明に奔走させられている。結果、ビンラディンの武装の有無など、発表は二転三転した。正しいことを行なって成功したのに、なぜ弁解をせねばならないのか理解に苦しむ。口を閉めていればいいだけの話ではないか。
 
 本来、今回のケースに釈明の必要などない。一人のサイコパスが消えただけなのだ。オバマ政権は作戦には成功したが、事後処理には失敗したと断ぜざるを得ない。さすがに国防長官のゲーツが「作戦内容を明かし過ぎだ」と批判したが、遅きに失している。

※SAPIO2011年6月15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン