芸能

名人・古今亭志ん朝の遺伝子を最も強く感じさせるのは志ん輔

 広瀬和生氏は1960年生まれ、東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。30年来の落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に接する。その広瀬氏が「古今亭志ん朝の意志を継ぐ」と評する落語家が、古今亭志ん輔である。

 * * *
 2001年10月の古今亭志ん朝の死は落語界にとってあまりに大きな損失だったが、この一門にはその半年前に、もう一つの悲劇が襲っていた。志ん朝の弟子の右朝が、肺ガンのため52歳で亡くなったのだ。右朝は立川談志をして「こいつは天下を取る」といわしめた逸材だった。今なお「右朝が生きていれば……」と惜しむ落語ファンは少なくない。

 昨年は一門の総領弟子の志ん五が上行結腸ガンのため61歳で亡くなっている。与太郎噺で売れた人気者で、近年は志ん朝十八番に意欲的に取り組み、落語界で存在感を増していた矢先だった。

 悲運の志ん朝一門。だが「師の遺志を継ぐ」優れた弟子は他にもいる。その筆頭が、古今亭志ん輔。1953年生まれで1972年に志ん朝に入門し、真打昇進は1985年。落語家としては今、最も脂の乗り切った時期だ。

 滑らかな語り口と軽やかなトーンの心地好さ。デフォルメとリアリズムを自在に使い分ける人物描写の見事さと、細部にこだわった演出。古典の伝統にわずかな「現代の息吹」を入れ、充分に「気持を込める」ことで観客の心をワシ掴みにする志ん輔は、一門の中で最も「志ん朝の遺伝子」を色濃く感じさせる。

『お見立て』『船徳』『明烏』『井戸の茶碗』『宿屋の富』『お直し』『子別れ』『文七元結』『幾代餅』『唐茄子屋政談』『三枚起請』『佃祭』『酢豆腐』等々、志ん輔の得意ネタの多くは、志ん朝十八番として知られる演目だ。僕は、そうした噺での志ん輔に、まごうことなき「志ん朝の遺伝子」を感じる。

 手や首の動かし方など、志ん輔に「志ん朝の仕草」を感じることは多いが、そうした表面的な類似ではなく、もっと本質的な「気持ちの入り方」や「噺の捉え方」といった部分を、志ん輔は師匠から真っ直ぐ受け継いでいるという気がするのだ。

※週刊ポスト2011年6月17日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
AIの技術で遭遇リスクを可視化する「クマ遭遇AI予測マップ」
AIを活用し遭遇リスクを可視化した「クマ遭遇AI予測マップ」から見えてくるもの 遭遇確率が高いのは「山と川に挟まれた住宅周辺」、“過疎化”も重要なキーワードに
週刊ポスト
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト