国内

「自分の得意な能力」を復興支援に活用する個人・企業が続々

 2011年3月11日の東日本大震災から、100日が過ぎた。日常を取り戻しつつある地域は拡大しているが、原発問題や未だ行方不明者が8000人を超えている(6月10日時点)など、事態は完全には収束していない。

 震災当初より多くの企業が被災地支援を表明。速度や対応は千差万別ながら、日本国内だけでなく世界中から物資や義援金が集まった。そんな中で記者がまず注目したのは、個人発信のアクションだった。SNSやTwitterなどを使って、多くの人々が自ら情報を発信すると共に、集めた情報を拡散して行った。

 今や当たり前となった節電ムーブメントに火をつけたのは、「ヤシマ作戦」だった。アニメ『エヴァンゲリオン』から引用された節電の呼びかけが、Twitterを中心にネット上で大規模拡散され、一般の人たちが生活レベルで節電するだけでなく、ネオンや看板での電気使用に対する節約気運を高め、企業もそれに呼応した。

 もちろん実際の電力不足や計画停電といった物理的な状況もあったが、一気に節電意識を浸透させたのは、大きな災害に浮足立っていた人々に“今やれること”を明確に示したこと、キャッチーなタイトルで拡散を促したこと、この2つが大きな要因だっただろう。

 そしてもうひとつ当サイトでも紹介した、「ハナサケ!ニッポン」プロジェクトは桜の開花を前に自粛ムードから花見に対する意見が二分された中、被災地である東北の蔵元からの声をYouTubeで発信。“やっぱり花見はすべきだ”“東北のものを買うことが、復興支援に繋がる”といった意識へ、大きな後押しとなった。

 あの状況下で“何をすべきか?”という方向性を示し、多くの人の支持を得た個人発信──しかしこれらのアクションを起こしたのは、ある意味で一般の個人ではない。

「ヤシマ作戦」はインフラや開発など、多くの人のバックアップがあったというが、最初にこの「作戦を発令」したのは、Web系の開発者。そして「ハナサケ!ニッポン」を立ち上げたのは、広告代理店・博報堂のクリエイターである高橋真氏だ。

 いわばWebや情報発信のプロが、個人の立場として行なった情報発信。

 まだあまり浸透していない単語であるが、「プロボノ」という言葉がある。「公共善のために」という意味のラテン語「pro bono publico」の略で、一般的には法律家の無料法律相談といった、プロによるボランティア活動のこと。Web開発者やクリエイターだからできたプロボノだったからこそ、大きなムーブメントに繋げることが可能だったと思われる。

 こうした個人の活動による支援も大切だが、今後の復興に向けては、やはり企業や自治体といった大きな支援もまた重要だ。前出個人発のプロボノ活動だけでなく、企業にもこうした動きが始まっている。

 6月15日に通販会社のフェリシモが「東北×みんなプロジェクト」という、新たなサイトを立ち上げた。

 フェリシモといえば「はいせんす絵本」「haco.」など、独自の世界観のカタログで女性を中心に多くの支持を集めている企業。継続的に商品が届く頒布形式のほか、プレゼントのようなパッケージで商品が届いた時の満足度を高めるなど、付加価値の高いサービスが特徴だ。神戸に本社を置く会社だが、1965年大阪で創立。阪神淡路大震災のあった1995年9月に神戸に移転している。「神戸カタログ」を発刊し、震災後の地元企業の復興に貢献した経験を持つ。

「東北×みんなプロジェクト」は、「自分たちで東北を元気にしてゆこう!」と立ち上がった地元企業にフェリシモが共感し、有志企業と共にまずは岩手県の特産品を販売している。

 地元企業のひとつとして参画した「神戸カタログ」の時と、同じようにはゆかない面もあるだろうが、スケールメリットのある流通システムを持ち、付加価値の高い商品戦略やサービスを得意とする企業が、被災地の企業1社1社と向き合いバックアップする──といった取り組みは、短期的な資本投下より中長期的な面で大きな意味を持つだろう。

 サイトを見るとまだ商品は少ないが、商品情報だけでなく、参画企業からのメッセージも掲載するなど、単に商品を取り扱うビジネスとしてだけではなく、共に寄り添って売って行こうとする姿勢を見せている。またフェリシモの支援活動サイトでは、社員が個人的に被災地へボランティア活動に行ったレポートなど、企業として個人の活動もバックアップしている様子がうかがえる。

 物資や義援金といった支援も復興へ向けた活動のひとつとして有効だ。業態によってできる取り組みも違うだろう。しかしプロボノのように、それぞれが自分の得意な能力を使って被災地をサポートする──という方法は真の復興を実現するために、改めて考えるべき取り組み方だろう。

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