国内

大前研一氏 「東電救済法案」は国民負担際限なく膨張と指摘

 政府は先月、東京電力・福島第一原子力発電所事故に伴う東電の賠償を支援するための「原子力損害賠償支援機構法案」を国会へ提出した。原発を持たない沖縄電力を除く全国の9電力会社が支払う負担金を基に機構を新設し、東電への資金交付や社債・株式の引き受けを通じて巨額の賠償負担を背負う東電の資金繰りを支える、という仕掛けである。

 だが、この法案にはいくつもの看過できない問題がある。そう指摘するのは大前研一氏だ。以下は大前氏の解説である。

 * * *
 まず、政府が機構に対していつでも換金できる交付国債を交付する形で「公的資金」を投入し、機構自身も「政府保証付き」の機構債を発行して資金調達できる点だ。この法案は「避難住民や農漁業者に対する賠償」という誰も反論できない大義名分の下にすんなり閣議決定されたが、本来なら一旦つぶすべき東電を税金で丸ごと延命させるためのいかさまのスキームであり、事実上の“東電救済法案”にほかならない。

 それはまさに現在の9電力会社による地域別独占体制を維持したい経済産業省と政治家の思惑通りといえる。経産省にとって電力業界は、天下り先などの極めて大きな既得権益だ。

 そして、電力利権、原子力利権の甘い汁を吸ってきた政治家たち、とくに自民党は、いつも景気対策で電力会社に不要不急の設備投資をさせて予算以外の景気刺激策にし、その余禄を得てきた。原発が立地している地域の自民党国会議員には、地元の有力者への口利きで“キックバック”をもらってきた者も多い。

 彼らは住民対策費や各種の特別会計などカネが潤沢な原子力産業に巣くう利権屋であり、その利権を温存しようとするのがこの法案なのである。そうしたとんでもない欺瞞を指摘することなく、政府の発表を垂れ流している新聞・テレビなど大マスコミの怠慢には呆れるばかりだ。

 この法案が成立すれば、国民負担が際限なく膨らむことになる。なぜなら、機構が東電に資金を貸し付けるというが、手続き上は機構ではなく銀行が貸し付け、それを政府が保証する仕組みになっているからだ。その結果、銀行は求められるがままに貸し出すことになるだろう。つまり、とめどなく国民の税金が投入される全く節操のない仕組みなのである。

※週刊ポスト2011年7月15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

長男・泰介君の誕生日祝い
妻と子供3人を失った警察官・大間圭介さん「『純烈』さんに憧れて…」始めたギター弾き語り「後悔のないように生きたい」考え始めた家族の三回忌【能登半島地震から2年】
NEWSポストセブン
古谷敏氏(左)と藤岡弘、氏による二大ヒーロー夢の初対談
【二大ヒーロー夢の初対談】60周年ウルトラマン&55周年仮面ライダー、古谷敏と藤岡弘、が明かす秘話 「それぞれの生みの親が僕たちへ語りかけてくれた言葉が、ここまで導いてくれた」
週刊ポスト
小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン