ライフ

都電の停車場の間隔 節電のため290mから800m弱になった

【書評】『地図で読む戦争の時代 描かれた日本、描かれなかった日本』(今尾恵介著/白水社/1890円)
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 * * *
 人間の営みとともに、地図は変化してきた。宅地、農地、道路、線路、さらには地名。それが「戦争の時代」となれば、なお面白い。いまのように地球観測衛星などない時代、地図には、作成者の目線が差し挟まれる。戦争において、地図は“最大の武器”であり、勝利した暁には、敗者の地に征服の印が刻まれることにもなった。

 それほどに地図は雄弁だ。当時は市販する地図の裏で、「軍事極秘」と打たれた“正しい”地図があった。同時代に並存した二つの地図を重ね合わせると、国家の非常事態というものがいかに危うく、抗いがたい空気を持つものだったか、想像力がわきおこるのである。

「戦時改描」がそのひとつだ。高層ビル群がそびえる新宿駅西口一帯は、かつて「淀橋浄水場」だった。昭和十三年の地図で「浄水場」とあるこの地は、戦況が厳しくなる昭和十七年になると「公園のような描写」になっている。はたして実際にそうだったのかというと、戦後の昭和二十二年の地図では、ふたたび元の浄水場となる。

 これは「昭和一二年に軍機保護法が改正」されたことで、戦争に必要な重要施設を「敵の目から」隠すためであった。ほかにも国内の兵器工場、ダム、発電所といった兵站基地が、敵からの攻撃をそらすために「これといった特徴もなさそうな農村」などに改描された。

 現実の世界でも、電車の路線が影響を受けた。たとえば都電(市電)の停車場の間隔は、昭和四年の「二九〇メートル」から、昭和十九年には「八〇〇メートル弱」となり、停車場の数は半分以下になっている。これは金属供出と、燃料不足による節電のためだった。

 そんな不便のなかでも、われわれと同じ日常生活が、地図のなかにはあった。日々の労働をして飯を食い、夜になれば床に就く。たまの休日には、電車に乗って街に出かけてもいただろう。

「油断していると戦争ははるか遠く昔のことになってしまう」という著者が発掘した数々の地図は、ことさら雄弁に、ちいさな人間の息づかいすら掬い上げる。

※週刊ポスト2011年8月5日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

元旦に結婚を発表した長澤まさみ
《長澤まさみが過去のSNS全削除と長期休養への背景》長澤まさみ、主演映画の撮影を1年延ばして選んだ電撃婚 『SHOGUN』監督夫と“帯同同伴カナダ計画”
NEWSポストセブン
《まだみんなウイスキーのおもしろさに気付いていない》イチローズモルトの初代ブレンダーが営業マン時代に着目したこと【連載「酒と人生」】
《まだみんなウイスキーのおもしろさに気付いていない》イチローズモルトの初代ブレンダーが営業マン時代に着目したこと【連載「酒と人生」】
NEWSポストセブン
大分市立中学校の校内で生徒が暴行を受けている動画が、SNS上で拡散された(Xより)
《いじめ動画の保護者説明会“録音データ”を入手》「『先生に言ったら倍返しになるから言わないで』と…」子供の不安を涙ながらに訴える保護者の悲痛な声【大分市】
NEWSポストセブン
久米宏さんが瀬戸内寂聴さんに語っていた「妻・麗子さんへの深い愛」とは(共同通信社)
〈妻と結婚していなかったら…〉久米宏さんが瀬戸内寂聴さんに語っていた「妻・麗子さんへの深い愛」 学生時代に知り合い結婚…仕事も家庭も2人で歩んだパートナー
NEWSポストセブン
高市早苗氏(時事通信フォト)
《600億円が使われる総選挙開戦へ》党幹部も寝耳に水、高市首相“チグハグ解散”背景にある3つの要因「旧統一教会問題」「不祥事」「対中関係」 “自民党軽視”と党内から反発 
女性セブン
北海道日高町で店の壁の内側から20代の女性の遺体が見つかった事件(左・店舗のSNSより)
《北海道日高市・壁に女性看護師の遺体遺棄》「お袋には何かにつけてお金で解決してもらって感謝している」バー経営・松倉俊彦容疑者が周囲に語っていた“トラブルエピソード”
NEWSポストセブン
売春防止法違反(管理売春)の疑いで逮捕された池袋のガールズバーに勤める田野和彩容疑者(21)(左・SNSより、右・飲食店サイトより、現在は削除済み)
《不同意性交で再逮捕》「被害者の子が眼帯をつけていたことも」「シラフで常連にブチギレ」鈴木麻央耶容疑者がガルバ店員を洗脳し“立ちんぼ”強要…店舗関係者が明かした“悪評”
NEWSポストセブン
モデルやレースクイーンとして活動する瀬名ひなのさん(Xより)
《下半身をズームで“どアップ”》「バレないように隣のブースから…」レースクイーン・瀬名ひなのが明かした卑劣な”マナー違反撮影“、SNSの誹謗中傷に「『コンパニオンいらない』は暴論」
NEWSポストセブン
肺がんのため亡くなったフリーアナウンサーの久米宏さん(時事通信フォト)
【追悼】久米宏さん 本誌だけに綴っていた「完全禁煙」と「筑紫哲也さんとの“再会”」
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《鎖骨をあらわに予告》金髪美女インフルエンサーが“12時間で1000人以上と関係”の自己ベスト更新に挑戦か、「私が控えめにするべき時ではありません」と“お騒がせ活動”に意欲
NEWSポストセブン
美貌と強硬姿勢で知られるノーム氏は、トランプ大統領に登用された「MAGAビューティ」の一人として知られる(写真/Getty Images)
〈タイトスーツに身を包む美貌の長官〉米・ミネアポリスで移民当局が女性射殺 責任者のクリスティ・ノーム国土安全保障長官をめぐる“評価”「美しさと支配の象徴」
NEWSポストセブン
中国出身の女性インフルエンサー・Umiさん(TikTokより)
《クスリ漬けか…との声も》ギャル系美女が映っていた“異様な監視カメラ映像”とは》「薬物を過剰摂取し、足も不自由で、死んでしまう…」中国インフルエンサー(20)の住居の管理人が証言
NEWSポストセブン