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《まだみんなウイスキーのおもしろさに気付いていない》イチローズモルトの初代ブレンダーが営業マン時代に着目したこと【連載「酒と人生」】

「酒と人生」連載第2回目は肥土伊知郎さんにうかがった

「酒と人生」連載第2回目は肥土伊知郎さんにうかがった

 新年を迎え、家族や友人と親睦の乾杯をしたり、一人じっくりと盃を傾けながら抱負を考えたり。清々しい一年の始まりに酒があるのは、どことなく嬉しいことだ。

 酒との付き合い方を聞きながらその人の生き方に迫る連載2回目は、国際的にも大人気のウイスキー「イチローズモルト」の生みの親、肥土(あくと)伊知郎さんが登場。聞き手は酒場ライターの大竹聡氏。【前後編の前編】

 * * *
 日々の暮らしの中で、人はみな、酒とどのように付き合っているのだろう。どんなときに、何をどれくらい飲むのか。今、気に入っている酒はどんなものか。これまでに飲んだ思い出の1杯とは、どんな酒か。

 酒飲み生活も40年。ひたすら飲みまくってきた私は今、葉っぱを齧っていた青虫がふと頭をあげて左右を見回すように、周囲に目を向けている。

 前回は、酒飲み界の大親分、なぎら健壱さんにお話を伺った。相も変らぬあっぱれな酒量と、迷いなき酒飲み哲学に魅了された。酒飲みたるものかくあるべしと勇気さえいただき、ようし、俺はもっと飲む! と声を荒らげた。

 今回は、飲み手から一転して酒の作り手に目を向けてみる。お訪ねしたのは、ベンチャーウイスキー社長の肥土伊知郎さん。国内ばかりでなく国際的にも極めて高い評価を得ているウイスキー、イチローズモルトの生みの親である。銘酒が生まれる秩父蒸溜所を訪ねた私を、肥土さんは笑顔で迎えてくれた。

 ご無沙汰をしていますと挨拶する私に、肥土さんは嬉しいことを言ってくれた。

「お付き合いも長いですから、今日はぜひ、お会いしたいと思いました」

 実は昨日までスコットランドへ出張をしていたそうである。また現在北海道の苫小牧に新しい蒸溜所を開設する準備も大詰めのため、猛烈に忙しい。そんな中、時間をつくってくださった。2008年に秩父蒸溜所が稼働を始めるとき、私はそのオープニングの記事を書いたので、お付き合いは17年になる。

 私が次に発したのは「飲んでますか?」のひと言だった。これは、お元気そうで、の代わりである。

「飲んでますねえ(笑)。飲み過ぎと言われながら、年間360日飲んでます。それでも、いたって健康ですよ。毎日とは言いませんが、週に何日かは走っていますし、スコットランドでもマラソンを走ってきました。今回は10キロですが、一昨年まではフルマラソンを走っていたんですよ。健康で、おいしく飲みたい。そんなところでしょうか」

 肥土さんは、ここ秩父の出身で、生家は江戸時代から続く造り酒屋である。

「子供の頃は、蔵の中を走り回っていました。酒造りでは酒米を蒸すのですが、蒸しあがった米を平べったい煎餅状にして、そこに醤油をぬって、火鉢の炭火で焼いて食べるんです。捻り餅というのですが、おいしいんですよ。そんなものが、おやつでした。僕にとって、酒造りはとても身近でした。でも、蔵を継ぐことについてはあまり意識せずに育ちました。父も継げとは言わなかったので、自分の好きなことをやれたらいいなと思っていました。大学進学のとき、父に勧められて東京農大を受けたのですが、他の志望校に落ちまして、結果的にうまいこと、レールに乗せられた感じでした(笑)」

 大学で醸造学を学んだ肥土氏は、卒業後はサントリーに入社。営業企画部門で輸入洋酒
の販売企画に携わることになった。

「販売企画を立てるといっても、どんな場所で飲まれているか、現場を知らないので、なかなかうまくいきませんでした。お前の提案は机上の空論だなんて言われましたね。それで部長にお願いをして1年がかりで異動させてもらい、現場の営業に出たんです」

 それ以来、30代になるまで、肥土さんは営業の現場に立ち続けた。イチローズモルトをこの世に送り出したマスターディスティラー(蒸留責任者)であり、類まれなテイスティング能力を発揮するブレンダーである肥土さんが、サラリーマン時代には営業マンだったことは、とても興味深い。

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