ライフ

日本が最強国でなかった理由に大和民族の優秀性強調しすぎ説

【書評】『最強国の条件』(エイミー・チュア著/徳川家広訳/講談社/2940円)

【評者】山内昌之(東大教授)

 * * *
 現在の国際関係を考える上でも有益な書物である。強国のなかにも「最強国」とそうでない強国があるという筆者の議論は正しいだろう。漢やローマは最強国であったが、アステカ帝国は最強国でなかった。この差異はどこから来るのであろうか。

 筆者は、最強国の条件として三つを挙げている。その第一は、国力全般において同時代の既知のライヴァルを上回っていることだ。第二は、軍事力と経済力で同時代の地球のどの国家よりも勝っていることである。第三は、地球的な規模で影響力を発揮する強国だということであろう。

 こうした条件を考えると、意外なことに、ルイ14世のフランスや冷戦時代のアメリカは最強国でないことになる。また、いちばん大事な条件は寛容さだという指摘は間違っていない。それは、いまのアメリカやアケメネス朝ペルシア、さらにモンゴル帝国や大英帝国を意識すれば正しいからである。

 オスマン帝国もこのカテゴリーに入るに違いない。人種構成の多様さを逆手にとるしたたかさをもたないと最強国になれないのは、いまのアメリカに限ったことではない。たとえば紀元前500年のペルシアの首都ペルセポリスでは、ギリシャ人の医師、エラム人の書記、リュディア人の木工職人、イオニア人の石工に加えてサルディア人の鍛冶師も住んでいたというのだ。まるでいまのニューヨークのようではないか。

 日本が最強国でなかった理由は何か。それはあまりにも人種的な偏見が強く、「ヤマト民族」のエリート性と優秀性を強調しすぎたからだという指摘は示唆に富んでいる。征服と支配を正当化するために、自分たちの純粋さを強調するようでは、「最強国」にはなれないのだ。優秀な人材の忠誠心を奮い起こし、かれらに全力を発揮させることができるのは寛容さだけだというのは歴史的な教訓に充ちた言葉であろう。

※週刊ポスト2011年9月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

真美子さんが目指す夫婦像とは(共同通信社)
《新婚当時から真美子さんとペアで利用》大谷翔平夫妻がお気に入りの“スポンサーアイテム”…「プライベートでも利用してくれる」企業オファーが殺到する“安心感”の理由
NEWSポストセブン
「講書始の儀」に初出席された悠仁さま(時事通信フォト)
《講書始の儀》悠仁さまが“綺麗な45度の一礼” 「紀子さまの憂慮もあって細かな準備があった」と皇室記者、新年祝賀の儀での秋篠宮さまの所作へのネット投稿も影響か
週刊ポスト
デビットベッカムと妻・ヴィクトリア(時事通信フォト)
〈ベッカム家が抱える“嫁姑問題”の現在〉長男の妻・ニコラがインスタから“ベッカム夫妻”の写真を全削除!「連絡は弁護士を通して」通達も
NEWSポストセブン
ニューヨーク市警に所属する新米女性警官が、会員制ポルノサイトにて、過激なランジェリーを身にまとった姿を投稿していたことが発覚した(Facebookより)
〈尻の割れ目に赤いTバックが…〉新米NY女性警官、“過激SNS”発覚の中身は?「完全に一線を超えている」
NEWSポストセブン
厳しい選挙が予想される現職大臣も(石原宏高・環境相/時事通信フォト)
《総選挙シミュレーション》公明票の動向がカギを握る首都決戦 現職大臣2人に落選危機、高市支持派アピールの丸川珠代氏は「夫とアベック復活」狙う
週刊ポスト
「ゼロ日」で59歳の男性と再婚したと報じられた坂口杏里さんだが…
《3年ぶり2度目のスピード離婚》坂口杏里さんの「ふっくら近影」に心配の声…「膝が痛くて…でもメンタルは安定してます」本人が明かした「59歳会社員との破局の背景」
NEWSポストセブン
笑いだけでなく「ふーん」「ええ!」「あー」といった声が人為的に追加される(イメージ)
《視聴者からクレームも》テレビ番組で多用される「声入れ」 若手スタッフに広がる危機感「時代遅れ」「視聴者をだましている感じがする」
NEWSポストセブン
北海道日高町で店の壁の内側から遺体が見つかった事件。逮捕された松倉俊彦容疑者(49)、被害者の工藤日菜野さん。(左・店舗のSNSより、右・知人提供)
「なんか臭くない?」「生ゴミを捨ててないからだよ」死体遺棄のバーで“明らかな異変”…松倉俊彦容疑者が見せた“不可解な動き”とは【日高・女性看護師死体遺棄】
NEWSポストセブン
カンボジア内務省は1月7日、米当局が“アジア最大の犯罪組織のひとつ”とする企業「プリンス・グループ」のチェン・ジー会長を逮捕したと発表した(時事通信=AFP)
「問題がある者を叩け。ただし殺すな」拷問に人身売買、ロマンス詐欺も… “アジア最大の在カンボジア犯罪組織”トップの中国人が「都内15億超えの高級マンション」に拠点
NEWSポストセブン
元旦に結婚を発表した長澤まさみ
《長澤まさみが過去のSNS全削除と長期休養への背景》長澤まさみ、主演映画の撮影を1年延ばして選んだ電撃婚 『SHOGUN』監督夫と“帯同同伴カナダ計画”
NEWSポストセブン
北海道日高町で店の壁の内側から20代の工藤日菜野さんの遺体が見つかり、松倉俊彦容疑者(49)が逮捕された(左・知人提供)
《日高・バーの壁に死体遺棄》「誰が見ても親密そうだった」「2人してよく酒を遅くまで飲んでいた」松倉俊彦容疑者(49)と“21歳年下”被害女性の関係とは
NEWSポストセブン
大分市立中学校の校内で生徒が暴行を受けている動画が、SNS上で拡散された(Xより)
《いじめ動画の保護者説明会“録音データ”を入手》「『先生に言ったら倍返しになるから言わないで』と…」子供の不安を涙ながらに訴える保護者の悲痛な声【大分市】
NEWSポストセブン