芸能

自虐的落語家三遊亭天どん ネタがスベると「ほらウケない」

 広瀬和生氏は1960年生まれ、東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。30年来の落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に接する。その広瀬氏が「“引き”の芸風の演者」と評するのが、三遊亭天どんだ。

 * * *
 名前もユニークなら芸風もユニークな三遊亭天どん。僕が好きな新作派の二ツ目だ。1972年生まれ、1997年に「新作の教祖」三遊亭圓丈に入門し、2001年に二ツ目昇進。所属する落語協会の通例でいえば、もうじき真打に昇進してもおかしくないキャリアである。
 
 天どんは完全に「引き」の芸風の演者だ。絶対に押してこない。どこか投げやりな口調で、いつも斜に構えている。高座に出てきて語り始めるマクラは、毒を吐くというよりブツブツ愚痴をコボすような感じで、薄笑いは浮かべているのに愛想が無い。ネタが空回りすると「ほらウケない」「いいですねー、この冷たい空気」などと自虐的なセリフを口走り、アウェイ感を倍増させる。
 
 そういうシニカルな態度は、落語に突入してからも変わらない。自分にツッコミを入れる「地の自分」が頻繁に顔を出す。それはほとんど「単なる愚痴」に近いのだが、天どん特有の絶妙の間合いで聴かされると、妙に可笑しい。この、「どうせ世の中こんなモンでしょ」とでもいうような皮肉なセンスが、天どんの魅力だ。
 
 天どんの落語に出てくる人たちは、全員ちょっと脱力している。とんでもない事態に陥っても、どこか冷めていて、あまりアタフタ騒がない。春風亭昇太に「人は追い詰められるとヘンなことをする。その可笑しさを描くのが落語」という名言があるが、天どんの場合、「追い詰められているのに冷めている」というヘンな状況が笑いを誘発する。
 
 天どんの新作落語は、設定だけ見るとコントに近いものが多いが、実はコント的ではなく、物語性に満ちている。ただ、三遊亭白鳥のように壮大なストーリーにはならない。天どんの新作には、ユーモアSF系ショートショートに近いシャレた味わいがある。中にはひたすらバカバカしいだけの噺もあるが、天どんのトボケた口調で語られると、妙に納得してしまう。そこがファンには堪らない「天どんの味」なのだ。

※週刊ポスト2011年10月7日号

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン