ライフ

社畜のススメ 「自分らしさ病」呪縛からの解放を提案する書

【書評】『社畜のススメ』/藤本篤志著/新潮新書/714円(税込)

* * *
〈サラリーマンの正しい姿とは、個性を捨て、自分らしさにこだわらず、自分の脳を過信せず、歯車になることを厭わない存在となることである〉。著者はこう規定し、若いサラリーマンに〈社畜になれ〉と勧める。

世に数多く流通するビジネス本、自己啓発本の類とは全く正反対の主張である。そのココロはどこにあるのか。

コンサルタントでもある著者の観察によれば、凡人がまだ社会人として未熟な時代に「自分らしさ」を追求すると、組織の中でうまく機能せず、個性ならぬ〈孤性〉ばかりが身につき、結局「口ばっかりの若手社員」や「夢見がちな転職難民」となってしまう。確かにそういう若手が多い、と肯く中高年は多いのではないか。

この「自分らしさ病」の悲劇は以前にも指摘されたことがある。数年前にベストセラーとなった『下流社会 新たな階層集団の出現』(三浦展著、光文社新書)によれば、やはり「自分らしさ」志向の強い若者ほど正規雇用にありつけず、低収入ゆえに結婚もできない傾向が目立つという。

そもそも、この「自分らしさ病」は日本の学校教育を覆ってきた。「詰め込み教育」に対する反省から「ゆとり教育」を導入し、子供の「個性」を大切にするようにした、というのがそれだ。

だが、周知のように子供の学力は低下し、社会に適合できない若者を大量生産した。同様に本書も、〈孤性化〉したサラリーマンが増えることで日本企業の組織力は衰える、と警鐘を鳴らす。

若い世代からは反感を買うだろうが、「自分らしくあれ」といった耳触りのいい建前が横行する日本の社会に一石を投ずる異色のサラリーマン論である。

※SAPIO2011年12月28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の打ち上げに参加したベッキー
《ザックリ背面ジッパーつきドレス着用》ベッキー、大河ドラマの打ち上げに際立つ服装で参加して関係者と話し込む「充実した日々」
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
雅子さまが三重県をご訪問(共同通信社)
《お洒落とは》フェラガモ歴30年の雅子さま、三重県ご訪問でお持ちの愛用バッグに込められた“美学” 愛子さまにも受け継がれる「サステナブルの心」
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
マレーシアのマルチタレント「Namewee(ネームウィー)」(時事通信フォト)
人気ラッパー・ネームウィーが“ナースの女神”殺人事件関与疑惑で当局が拘束、過去には日本人セクシー女優との過激MVも制作《エクスタシー所持で逮捕も》
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン