国内

脱原発に向けた橋下徹市長の勝利 カギは関電個人株主にあり

仕事始めの1月4日、大阪国際会議場で開かれた政財界の新年互礼会で、橋下徹・大阪市長は、「道州制実現のために総力を挙げて国のかたちを変えていきましょう」と地方分権の推進を訴えた。

昨年11月の大阪W選挙で圧勝した橋下氏が大阪都構想とともに政策の柱に掲げるのが「脱原発」だ。この日、ひな壇で橋下氏の隣に並んだ関西経済連合会会長の森詳介・関西電力会長はメディアの新年インタビューに「(電力の安定供給には)原発の再稼働以外にない」と脱原発路線を牽制。橋下氏はこの席では原発問題にあえて言及しなかったものの、2人の間には“静かな火花”が散っていた。

それを示すように関電側は早速、翌5日に八木誠社長が同社の原発が集中する福井県の西川一誠・知事を訪ね、「経済成長に原発は大変重要」と再稼働への根回しを始めて先手を打ったのである。

「原発銀座」と呼ばれる福井には関電が持つ「美浜原発」(3基)「大飯原発」(4基)「高浜原発」(4基)のほか、日本原電の敦賀原発(2基)の4原発が集中しているが、唯一稼働中の高浜原発3号機が2月20日から定期検査に入る予定で、そうなれば関電のすべての原発が停止する。発電量の4割を原発に頼る関電にとって、定期検査済みの原発を再稼働させるのが“至上命題”となっている。

それに対して、橋下氏の戦略は6月の関電の株主総会での正面突破だ。

大阪市は関電の約8.9%の株を所有する筆頭株主であり、総会で関電経営陣に「脱原発」(原発依存度の引き下げ)と「発送電分離」を株主提案として突き付けるというものだ。

橋下氏は昨年末に開いた市戦略会議で関係部局にそうした方針を打ち出し、大阪府との府市統合本部の会議で、「電力問題は行政が取り組んだことがない。外部の専門家に詳細な案を作ってもらいたい」と同本部特別顧問の元経産官僚・古賀茂明氏らの有識者チームに3月をメドに株主提案の具体策をまとめるように指示を出した。橋下ブレーンの1人が語る。

「関電は民間企業だ。市民運動的な視点で原発廃止を迫るだけでは他の株主の賛同は得られない。しかし、大きな原発事故が起きれば東電のようにいっぺんに経営が破綻する。原発の経営リスクを減らしながら、発送電分離を含めた経営形態の見直しで電力の安定供給をはかることが株主の長期的利益につながるという現実的な提案をする必要がある」

具体的には、関電の発電部門と送電部門を分離し、関西広域連合による共同発電所、大阪府と市のゴミ処理場の統廃合とセットにした小型発電所の建設など官民で発電所を増やして「電力の地産地消」を進め、原発依存度を減らしながら代替電力を増やしていくことなどが検討課題のようである。

とはいえ、大阪市の持つ株だけでは株主提案の実現は不可能だ。そこで橋下氏は、近畿を中心に2府5県の自治体が参加する関西広域連合の会議(2011年12月27日)で関電の大株主である神戸市や京都市に「3市合わせて関電株式の15%くらいになる。ぜひ一緒にやりたい」と共同提案を呼びかけた。しかしそれでもまだ足りない。「大阪維新の会」関係者は、こんな作戦を明かす。

「関電株の約4割は個人株主が保有している。いかにそうした個人株主の賛同を得るかが勝敗を決める。脱原発ファンドなどをつくって個人株主を募るやり方もある。一度で過半数を得るのは難しくても、株主総会で増資や定款変更など特別決議を拒否できる3分の1の議決権を握れば経営側も要求を無視できなくなる」

6月の株主総会まで半年もない。短期決戦を制するには、いかに「脱原発」と「電力の安定」を両立させる説得力のある株主提案をまとめることができるかどうかにかかっている。

※SAPIO2012年2月1・8日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

「夢みる光源氏」展を鑑賞される愛子さま
【9割賛成の調査結果も】女性天皇についての議論は膠着状態 結婚に関して身動きが取れない愛子さまが卒論に選んだ「生涯未婚の内親王」
女性セブン
勝負強さは健在のDeNA筒香嘉智(時事通信フォト)
DeNA筒香嘉智、日本復帰で即大活躍のウラにチームメイトの“粋な計らい” 主砲・牧秀悟が音頭を取った「チャラい歓迎」
週刊ポスト
『虎に翼』の公式Xより
ドラマ通が選ぶ「最高の弁護士ドラマ」ランキング 圧倒的1位は『リーガル・ハイ』、キャラクターの濃さも話の密度も圧倒的
女性セブン
羽生結弦のライバルであるチェンが衝撃論文
《羽生結弦の永遠のライバル》ネイサン・チェンが衝撃の卒業論文 題材は羽生と同じくフィギュアスケートでも視点は正反対
女性セブン
“くわまん”こと桑野信義さん
《大腸がん闘病の桑野信義》「なんでケツの穴を他人に診せなきゃいけないんだ!」戻れぬ3年前の後悔「もっと生きたい」
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
中森明菜
中森明菜、6年半の沈黙を破るファンイベントは「1公演7万8430円」 会場として有力視されるジャズクラブは近藤真彦と因縁
女性セブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
撮影前には清掃員に“弟子入り”。終了後には太鼓判を押されたという(時事通信フォト)
《役所広司主演『PERFECT DAYS』でも注目》渋谷区が開催する「公衆トイレツアー」が人気、“おもてなし文化の象徴”と見立て企画が始まる
女性セブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
昨年9月にはマスクを外した素顔を公開
【恩讐を越えて…】KEIKO、裏切りを重ねた元夫・小室哲哉にラジオで突然の“ラブコール” globe再始動に膨らむ期待
女性セブン