国内

放射能被害煽るNHK特番に放射線防護委がBPO提訴する準備も

 震災直後ならいざ知らず、誰もが激動の1年を心静かに噛みしめて過ごした昨年末、放射能被害の恐怖をいたずらに煽る許しがたい番組が放送された。

 2011年12月28日のNHK『追跡!真相ファイル 低線量被ばく 揺らぐ国際基準』がそれである。

 チェルノブイリの事故で放射性物質が降下したスウェーデンで、少数民族サーメ人の「がん死が34%増えた」、米イリノイ州の原発周辺では「脳腫瘍・白血病が30%増えた」と紹介し、年10ミリシーベルト以下の低線量被曝でも健康被害が激増していると指摘する内容だった。その上で、放射線防護の基準を示している国際放射線防護委員会(ICRP)は低線量被曝の影響を過小評価し、「原子力産業からの圧力で基準を緩和してきた」と厳しく批判したのである。

 これが本当ならとんでもない話だ。事実、放送直後からネット上には視聴者の驚きの声があふれ、「ICRP許すまじ」という論調が巻き起こった。しかし、番組で語られた内容はあまりに現実とかけ離れていることが分かってきた。

 まずサーメ人のがん死増加についてだが、ルイ・パストゥール医学研究センター・分子免疫研究所の藤田晢也・所長はこう説明する。

「番組では事故後1~4年の間、がん死が増えたというが、放射線被曝でがんを発症した場合、発見できる大きさになるまで平均25年かかる。強制移住や食料制限などでストレスが増加し、免疫力が低下したため、すでに進行していたがんが急速に悪化したと考えるほうが現実的です」

 医学の常識では、サーメ人のがんと被曝は全く関係ないのである。

 米イリノイ州の原発周辺で脳腫瘍や白血病が増加した話にもカラクリがある。30%増加したといっているのは、「発症人数」であって「発症率」ではない。

 アメリカの国勢調査によれば、イリノイ州ブレイドウッド原発のある町では、1990年から2010年までの20年間で人口が72.7%増、ドレスデン原発にもっとも近い町シャナホンでは同期間に人口が3倍近く増加している。人口が増えれば「発症人数」は増えて当然である。人口増に比べて患者の増加率は低いようだから、むしろ発症率は下がっている可能性のほうが高い。

 番組後半ではICRPの委員や元委員への取材で、原子力産業からの圧力で基準を緩めてきたとする驚きの証言を引き出して非難するが、これも嘘だ。

 ICRP勧告の公衆被曝の限度は、かつては年5ミリシーベルトだったが、1985年に年1ミリシーベルトに規制強化された。職業被曝の限度は年50ミリシーベルトだったものが、1990年勧告で5年平均が20ミリシーベルトまでという制限が加わっている。緩和どころか逆に厳しくなっている。

 日本のICRP委員である丹羽太貫・京大名誉教授は憤慨する。

「取材に答えた委員や元委員の発言を意図的に編集し、間違った字幕(翻訳)をつけて流したことを我々は問題視しています。NHK側には、訂正報道を求めて二度目の会合をもちますが、ご理解いただけないのならBPO(放送倫理・番組向上機構)に提訴するしか手だてはない」

 丹羽教授は、すでにBPO提訴の準備を始めているという。

 この番組に抗議しているのはICRPだけではない。2012年1月には、原子力の専門家112人が抗議文を提出している。そのなかで、番組内容が正しければ、世界に約440基ある原発周辺や他の北欧諸国でもがんや脳腫瘍などが増加しているはずだ、との疑問を呈している。至極もっともな指摘であり、NHKは訂正しないなら全力を挙げて調べてくるべきだろう。

※週刊ポスト2012年3月9日号

トピックス

デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
【白鵬氏が九州場所に姿を見せるのか】元弟子の草野が「義ノ富士」に改名し、「鵬」よりも「富士」を選んだことに危機感を抱いた可能性 「協会幹部は朝青龍の前例もあるだけにピリピリムード」と関係者
【白鵬氏が九州場所に姿を見せるのか】元弟子の草野が「義ノ富士」に改名し、「鵬」よりも「富士」を選んだことに危機感を抱いた可能性 「協会幹部は朝青龍の前例もあるだけにピリピリムード」と関係者
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
部下と“ホテル密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト/目撃者提供)
《前橋・小川市長が出直し選挙での「出馬」を明言》「ベッドは使ってはいないですけど…」「これは許していただきたい」市長が市民対話会で釈明、市議らは辞職を勧告も 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン
維新に新たな公金還流疑惑(左から吉村洋文・代表、藤田文武・共同代表/時事通信フォト)
【スクープ!新たな公金還流疑惑】藤田文武・共同代表ほか「維新の会」議員が党広報局長の“身内のデザイン会社”に約948万円を支出、うち約310万円が公金 党本部は「還流にはあたらない」
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《ほっそりスタイルに》“ラブホ通い詰め”報道の前橋・小川晶市長のSNSに“異変”…支援団体幹部は「俺はこれから逆襲すべきだと思ってる」
NEWSポストセブン
東京・国立駅
《積水10億円解体マンションがついに更地に》現場責任者が“涙ながらの謝罪行脚” 解体の裏側と住民たちの本音「いつできるんだろうね」と楽しみにしていたくらい
NEWSポストセブン
今季のナ・リーグ最優秀選手(MVP)に満票で選出され史上初の快挙を成し遂げた大谷翔平、妻の真美子さん(時事通信フォト)
《なぜ真美子さんにキスしないのか》大谷翔平、MVP受賞の瞬間に見せた動きに海外ファンが違和感を持つ理由【海外メディアが指摘】
NEWSポストセブン
柄本時生と前妻・入来茉里(左/公式YouTubeチャンネルより、右/Instagramより)
《さとうほなみと再婚》前妻・入来茉里は離婚後に卵子凍結を公表…柄本時生の活躍の裏で抱えていた“複雑な感情” 久々のグラビア挑戦の背景
NEWSポストセブン