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被災地で売れてる本『大きな字の常用国語辞典』他20冊を紹介

 週刊ポストでは昨年から、被災地の書店や「移動書店」などの取り組みを追った連載「復興の書店」を続けてきた。その「復興の書店」取材店舗にて独自集計したベストセラーが以下の20冊である。

【1】『礼儀正しい人の手紙の書き方とマナー』(高橋書店)
【2】『はげまして はげまされて』(竹浪正造著、廣済堂出版)
【3】『仙台ぐらし』 (伊坂幸太郎著、荒蝦夷)
【4】『さよならのあとで』(ヘンリー・スコット・ホランド著、夏葉社)
【5】『圧力なべ RECIPE BOOK』(ダイアプレス)、『圧力鍋の便利帳』(池田書店)
【6】『絶望からの出発』(曽野綾子著、PHP研究所)
【7】『6枚の壁新聞』(石巻日日新聞社編、角川SSC新書)
【8】『宮城・福島の海釣り』(河北新報出版センター)
【9】『福島に生きる』(玄侑宗久著、双葉新書)
【10】『やさしい大人の塗り絵』(河出書房新社)
【11】『海と風と町と』(みやぎの思い出写真集制作委員会)
【12】『石巻・東松島・女川今昔写真帖』(郷土出版社)
【13】『遺体』(石井光太著、新潮社)
【14】『ふたたび、ここから』(池上正樹著、ポプラ社)
【15】『大きな字の常用国語辞典』(学研)
【16】『月刊ハウジング』(リクルート)
【17】『第八森の子どもたち』(エルス・ペルフロム作、福音館文庫)
【18】『までいの力』(SEEDS出版)
【19】『あなたが世界を変える日』(セヴァン・カリス=スズキ著、学陽書房)
【20】『石原10年日記』(石原出版社)

 そして、これらの本がなぜ売れたのか。そこには、被災地特有の売れる理由がある。まずは『大きな字の常用国語辞典』(【15】)──。

「被災した年配の方が新たに辞書を求める際、字の大きなものを必要とされました。辞書の置かれた部屋ごと流されてしまった方が多いようなんです」(宮脇書店気仙沼本郷店・小野寺徳行店長)

 震災は生活環境を大きく変えた。その暮らしに順応するために人々は情報を──本を求めた。

「仮設生活では鍋を何個も持つわけにはいかず、さまざまな用途で使える圧力鍋が売れた」(小野寺氏)ため、レシピ本(【5】)を購入する客が多かった。人気商品の動向から「復興」に歩もうとする足音が聞こえる。

「最初は『手紙の書き方』(【1】)のような本が売れていました。震災後一段落して、御世話になった方に向け礼状を書こうとしたんです。でも今は家造りに纏わるような本(【16】)が売れています。流された家をどうにか再建したい、との思いからでしょう」とブックポートネギシ(大船渡市)の鈴木真店長はいう。

 続いて福島いわき市のヤマニ書房エブリア店の吉田政弘店長。

「『10年日記』(【20】)のような将来を設計するような本の問い合わせが多かった。例年はほとんど注文がない商品なんですが……」

 震災写真集もベストセラーになった。だが時を経るにつれ売れ筋は報道写真集から、懐古写真集(【11】【12】)に変わったという。

「『宮城・福島の海釣り』(【8】)には三陸の空撮写真がのってます。本来釣り場所を選ぶ本ですが、今は無き住まいを探すために求める方が多かった」(同)

 地元が舞台の本もベストセラーとなった。『遺体』(【13】)は釜石の遺体安置所を巡る物語。桑畑書店(釜石市)の桑畑眞一店長は同書を売りたい本に挙げた。

「死者数は分かっても彼らがどう処置をされたのかまでは知らなかった。再出発するためにも、我々はその現実から目を背けてはならない」

 福島県飯舘村の日常を紹介したカラー本『までいの力』(【18】)を挙げるのは「ほんの森いいたて」元副店長の高橋みほり氏だ。

「までいとは“思いやり”といった意味で使われる方言です。この本は震災前に発刊予定でした。飯舘村はいま、人が住めない場所になってしまいましたが、“までいの力”があればいつか必ず立ち上がれると思う」

 同県南相馬市・おおうち書店の大内一俊店長は、12歳の少女が環境サミットで語った伝説のスピーチ『あなたが世界を変える日』(【19】)を挙げて、復興への思いをこう訴えた。

「神様への祈りだけでは何も始まらないことを本は諭しています。我々も皆さんも、待ったなしの状況なのではないでしょうか」

※週刊ポスト2012年3月9日号

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