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連載特別編 角打ち信者が一度は呑みに行きたい「総本山」

2012.03.13 16:00

 酒屋の店先で、きゅーっとひっかける立ち呑み。この粋な呑み方を角打ちと称するが、その発祥の地が、福岡

 酒屋の店先で、きゅーっとひっかける立ち呑み。この粋な呑み方を角打ちと称するが、その発祥の地が、福岡県北九州市なのだ。全国の角打ち名店を訪ね、呑み歩いてきたシリーズ。今回は特別編、北九州市出身の画家・牧野伊三夫氏と地元の名物店を歩いてみた。

■角打ち総本山で、お母さんの手料理に涙する

『魚住酒店』は昭和20年1月、市内の栄町からこの場所に疎開した。当時この界隈は料亭や置屋があり、芸者や鳴り物師などが行き来する、にぎやかな土地だったという。しかし現在は、旧料亭・三宜楼(さんきろう)の木造3階建ての建物がわずかに名残を残すのみで、ゆっくりと流れる時間が見えるような、静かな一画になっている。

「疎開した時点ですでにこの木造の家は築100年経っていたといいます。店についても、昭和14年以前の記録がなくて、創業は昭和初期としかいえないんですよ」と、3代目魚住哲司さん(48)。

 店構えも店内も、恐ろしく古めかしく、まるで神が宿っているような荘厳な雰囲気がある。北九州は角打ち発祥の地であり、現在も300軒近い数の店があるといわれる。そんな中にあって、もし“角打ち教”といわれる宗教があったとしたならば、全国に点在する信者が、巡礼をしながらでも一度は呑みに行きたいと憧れる「総本山」といってもいい存在の店なのだ。

 もうずっと以前から、そんな神の館で暮らしていると思わせる哲司さんだが、実は5年前までは、広島の印刷会社でサラリーマンをしていた。
「継ぐ気も戻る気もなかったんですが、父が病気で倒れてしまったもので。帰ってきてくれと直接的には言われませんでしたけど、やっぱりそこはね。正式に継いだのは、おととしの4月です」

 縦長で居心地のいい狭さの店内に大きな冷蔵庫が3台。客はここから勝手に地酒や焼酎ハイボールを取り出し、自己申告をする。角打ちをこよなく愛するあまり、有志とともにこの店で『角文研』(北九州角打ち文化研究会)を旗揚げした須藤輝勝会長(64)も、「それが角打ちの真の姿。こういう店だからこそ、大事にしたいですよ。北九州の文化、日本独特の文化ですしね」と、力説する。

 曲がりくねった細くて急な坂道の途中にあるこの店。人通りも恐ろしく少ない。
「区役所の方々がしょっちゅう来てくれます。もちろん、角文研のみなさんも。機内誌を読んで、北九州空港からまっすぐタクシーを飛ばして来たなんて人もいます。にぎやかな場所じゃないし、混まないからいいんです」(哲司さん)

 奥の台所では、お母さん(先代夫人・眞由美さん・71)が、うまい料理をせっせと作っては出してくる。「うちの今晩のおかずだから」と笑いながら言って、決してお金を取ることはない。

「お客さんがね、庭でとれた野菜だよとか、おいしそうな魚を売っていたんで買ってきたとか言って、持ってきてくれるのよ。みんな家族だからね。食べてもらいたいじゃないの」(眞由美さん)
 そんな言葉に、下関から船で海峡を渡って通ってきたという客が、涙ぐんだ。

■魚住酒店
【住所】北九州市門司区清滝4-2-35
【電話】093-332-1122
【営業時間】9時~21時。無休
日本酒260円、ビール大びん360円、焼酎ハイボール150円。つまみはソーセージ80円、缶詰250円~。眞由美さんの作る家庭料理は、基本的に無料。

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