国内

放射能恐れ福岡移住男性 失業保険をもらうが再就職は考えず

 東京電力福島第一原発事故から1年。事態は解決に向かっているとはいいがたく、いまだ故郷に戻れない人もたくさんいる。不透明な先行きのなか、子供への放射能の影響を心配し、安全な土地へ移住する子育て世代が相次いでいる――ノンフィクション・ライターの北尾トロさんも奥さんに引っ張られるように、移住を計画中。そこで、トロさん自ら、すでに移住生活を始めた家族たちに、その本音を尋ねて回った。

 * * *
 福岡県糸島市は福岡市の隣、玄界灘に面したプチリゾート地。最寄り駅まで渡邊美穂さん(37才)と息子の三多クン(1才)が車で迎えにきてくれた。家賃3万円の長年空き家だった物件は、使わない部屋があるほどゆったりし、敷地100坪は下らない。夫の精二さん(36才)も床の張り替えや壁の塗装を手伝い、秋から暮らし始めている。

「ふたりとも福岡出身で、いずれ九州で田舎暮らししたいと考えてはいたんです。震災後は母子だけで実家に戻っていたんですが、ある日、彼から『会社辞めてもいいか』と電話があって、いいんじゃないと答えました」(美穂さん)

 一家で脱・東京しちゃったわけだ。精二さんは大学卒業後、いままでサラリーマンをしていた。結婚後は会社の社宅に夫婦で住み、一粒種の三多クンが生まれて3人で暮らしていた。よく思い切れたなあ。

「会社はいずれは辞めるつもりでいたから未練はなかった。先のアテ? ないんですけど、心配していたら新しいことはできないじゃないですか。まずやってみよう、何とかなるだろうと。現在は失業保険をもらっていますが再就職も考えてないですね」(精二さん)

 でも、この地は九州電力玄海原発が近い。その心配はなかったのか。

「ここに永住するとは決めていません。不安が強くなればまた移住しますよ」(精二さん)

 なんだかこのふたり、やけに前向きだ。どっちみち、いつかは東京を離れるはずだった。それが早まっただけ。そんな話し振りなのである。糸島の人たちは移住ウエルカムな雰囲気。望めば畑も借りられるので、野菜をつくり、空き時間には近くの埠頭で釣りでもして暮らそうかなんて笑っている。ぶっちゃけ、後悔はないのか。

「まったく。ぼくは畑を耕してみたいから」(精二さん)

 それで生活はできないから、現金収入を得ることは必要だ。その方法はまだ見つからず、貯蓄を取り崩しているそうだが、表情は楽観的。家賃や生活費は安く済む。それに応じた稼ぎがあればいいと考えるからだ。13年間も働いたのだから、じっくり案を練るのもいいではないか。

※女性セブン2012年3月29日・4月5日号

関連キーワード

トピックス

自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
連敗中でも大谷翔平は4試合連続本塁打を放つなど打撃好調だが…(時事通信フォト)
大谷翔平が4試合連続HRもロバーツ監督が辛辣コメントの理由 ドジャース「地区2位転落」で補強敢行のパドレスと厳しい争いのなか「ここで手綱を締めたい狙い」との指摘
NEWSポストセブン
伊豆急下田駅に到着された両陛下と愛子さま(時事通信フォト)
《しゃがめってマジで!》“撮り鉄”たちが天皇皇后両陛下のお召し列車に殺到…駅構内は厳戒態勢に JR東日本「トラブルや混乱が発生したとの情報はありません」
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《早穂夫人は広島への想いを投稿》前田健太投手、マイナー移籍にともない妻が現地視察「なかなか来ない場所なので」…夫婦がSNSで匂わせた「古巣への想い」
NEWSポストセブン
2023年ドラフト1位で広島に入団した常廣羽也斗(時事通信)
《1単位とれずに痛恨の再留年》広島カープ・常廣羽也斗投手、現在も青山学院大学に在学中…球団も事実認める「本人にとっては重要なキャリア」とコメント
NEWSポストセブン
芸能生活20周年を迎えたタレントの鈴木あきえさん
《チア時代に甲子園アルプス席で母校を応援》鈴木あきえ、芸能生活21年で“1度だけ引退を考えた過去”「グラビア撮影のたびに水着の面積がちっちゃくなって…」
NEWSポストセブン
釜本邦茂さん
【追悼】釜本邦茂さんが語っていた“母への感謝” 「陸上の五輪候補選手だった母がサッカーを続けさせてくれた」
週刊ポスト
有田哲平がMCを務める『世界で一番怖い答え』(番組公式HPより)
《昭和には“夏の風物詩”》令和の今、テレビで“怖い話”が再燃する背景 ネットの怪談ブームが追い風か 
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《過激すぎる》イギリス公共放送が制作した金髪美女インフルエンサー(26)の密着番組、スポンサーが異例の抗議「自社製品と関連づけられたくない」 
NEWSポストセブン
悠仁さまに関心を寄せるのは日本人だけではない(時事通信フォト)
〈悠仁親王の直接の先輩が質問に何でも答えます!〉中国SNSに現れた“筑波大の先輩”名乗る中国人留学生が「投稿全削除」のワケ《中国で炎上》
週刊ポスト