国際情報

尖閣事件で中国 日本人がここまで愛国心あることを読み違えた

 2年前の尖閣諸島沖での衝突事件も、今年3月の中国監視船による領海侵犯も、実は中国が描いた「東シナ海盗り」メディア戦略の一環だった。中国は巧妙に東シナ海に浮かぶ日本の領土、尖閣諸島に領有権問題が存在することを国際社会にアピールしていたのである。海洋政策、海洋安全保障、国境問題が専門の山田吉彦・東海大学教授が解説する。

 * * *
 中国政府は2009年の冬、新華社、中国中央テレビ(CCTV)、人民日報を通して「中国の国際的イメージ向上」をめざした海外向け報道を強化する戦略に打って出た。新華社は24時間放送の英語ニュース局を開設、CCTVは英語の他スペイン語、フランス語など5か国語の外国語放送局を開設し、中国のマイナスイメージを払しょくしようとしている。

 この中国の海外向けメディア戦略と、2010年9月7日の尖閣諸島周辺海域で発生した中国漁船と海上保安庁巡視船衝突事件、および今年3月16日の中国国際海洋局所属の監視船による領海侵犯は決して無関係ではない。メディア戦略をもって、中国は東シナ海を盗りに来たのである。

 9月7日の事件を振り返ってみよう。この日、中国は160隻の大漁船団を尖閣諸島沖に送りこみ、そのうち30隻が領海侵犯していた。領海侵犯した30隻のうちの1隻が、海上保安庁の巡視船に衝突、この船長を逮捕した。

 中国側は猛烈に抗議し、国連総会に出席していた温家宝首相が9月23日、ニューヨークでの演説で「国家主権や統一、領土保全といった核心的利益について中国は決して妥協しない」と発言。強い姿勢で挑むことを改めて強調した。

 その数日後、船長は処分保留のまま解放され、英雄の凱旋のように福建省の省都・福州へと帰って行った。だが、この船長がただの漁民ではないということは、逮捕前の船上からもうかがえる。船をぶつける時の堂々とした態度。また、身柄を拘束され、取り調べを受けてもまったく動揺した様子を見せなかったというから、最初から逮捕されることを想定していたとしか思えない。

 中国側は故意にこの騒ぎを起こしたのである。その目的は、国際社会から黙殺されている「尖閣は中国の領土」という考えを主張するために、日本の主張している尖閣諸島周辺の領海内で問題を起こすことによって、あえて領土問題をつくり上げることだった。

 尖閣諸島周辺が平穏なままだと、日本の実効支配は固まり、日本の主張する境界線が確定する。そこで中国は、まず「境界線は確定していない。日中間には国境問題が存在して、争っている最中だ」ということを国際社会に強くアピールする作戦を取った。

 事実、尖閣諸島周辺に「領土問題」が存在すると主張する中国の目論見は成功したといえるだろう。しかし、一方で中国は、この時のメディア戦略で失敗も犯した。

 その最たるものが日本人の「愛国心」の読み間違えだった。

 中国はおそらく、政府さえ押さえつければ、日本人は尖閣諸島問題にそれほど関心を示さないだろうと高をくくっていた。だからこそ、船長の解放要求など強硬な態度に出て、日本政府に対して脅しをかけるような交渉を仕掛けてきたのである。

 ところが、尖閣事件は日本の世論に火をつけてしまった。中国政府にとって、日本人の中に反中国の感情が蔓延することは、経済的な面から見ても大きな問題だ。

 さらに国際社会からも冷たい視線で見られるようになった。気がつけば、アジア太平洋経済協力会議(APEC)メンバーのベトナム、フィリピン、インドネシア、そしてミャンマーまでもがアメリカとの協力体制を築き、中国から離れてしまった。尖閣事件以後、中国はかなり追いつめられた状況になったのである。

※SAPIO2012年4月25日号

関連キーワード

トピックス

遺体には電気ショックによる骨折、擦り傷などもみられた(Instagramより現在は削除済み)
《ロシア勾留中に死亡》「脳や眼球が摘出されていた」「電気ショックの火傷も…」行方不明のウクライナ女性記者(27)、返還された遺体に“激しい拷問の痕”
NEWSポストセブン
当時のスイカ頭とテンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《“テンテン”のイメージが強すぎて…》キョンシー映画『幽幻道士』で一世風靡した天才子役の苦悩、女優復帰に立ちはだかった“かつての自分”と決別した理由「テンテン改名に未練はありません」
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
《ヤクザの“ドン”の葬儀》六代目山口組・司忍組長や「分裂抗争キーマン」ら大物ヤクザが稲川会・清田総裁の弔問に…「暴対法下の組葬のリアル」
NEWSポストセブン
1970~1990年代にかけてワイドショーで活躍した東海林さんは、御年90歳
《主人じゃなかったら“リポーターの東海林のり子”はいなかった》7年前に看取った夫「定年後に患ったアルコール依存症の闘病生活」子どものお弁当作りや家事を支えてくれて
NEWSポストセブン
テンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《キョンシーブーム『幽幻道士』美少女子役テンテンの現在》7歳で挑んだ「チビクロとのキスシーン」の本音、キョンシーの“棺”が寝床だった過酷撮影
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKIが結婚することがわかった
女優・趣里の結婚相手は“結婚詐欺疑惑”BE:FIRST三山凌輝、父の水谷豊が娘に求める「恋愛のかたち」
NEWSポストセブン
タレントで医師の西川史子。SNSは1年3ヶ月間更新されていない(写真は2009年)
《脳出血で活動休止中・西川史子の現在》昨年末に「1億円マンション売却」、勤務先クリニックは休職、SNS投稿はストップ…復帰を目指して万全の体制でリハビリ
NEWSポストセブン
中川翔子インスタグラム@shoko55mmtsより。4月に行われた「フレンズ・オブ・ディズニー・コンサート2025」には10周年を皆勤賞で参加し、ラプンツェルの『自由への扉』など歌った。
【速報・中川翔子が独立&妊娠発表】 “レベル40”のバースデーライブ直前で発表となった理由
NEWSポストセブン
奈良公園で盗撮したのではないかと問題視されている写真(左)と、盗撮トラブルで“写真撮影禁止”を決断したある有名神社(左・SNSより、右・公式SNSより)
《観光地で相次ぐ“盗撮”問題》奈良・シカの次は大阪・今宮戎神社 “福娘盗撮トラブル”に苦渋の「敷地内で人物の撮影一切禁止」を決断 神社側は「ご奉仕行為の妨げとなる」
NEWSポストセブン
“凡ちゃん”こと大木凡人(ぼんど)さんにインタビュー
「仕事から帰ると家が空っぽに…」大木凡人さんが明かした13歳年下妻との“熟年離婚、部屋に残されていた1通の“手紙”
NEWSポストセブン
太田基裕に恋人が発覚(左:SNSより)
人気2.5次元俳優・太田基裕(38)が元国民的アイドルと“真剣同棲愛”「2人は絶妙な距離を空けて歩いていました」《プロアイドルならではの隠密デート》
NEWSポストセブン
『ザ・ノンフィクション』に出演し話題となった古着店オーナー・あいりさん
《“美女すぎる”でバズった下北沢の女子大生社長(20)》「お金、好きです」上京1年目で両親から借金して起業『ザ・ノンフィクション』に出演して「印象悪いよ」と言われたワケ
NEWSポストセブン