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橋下徹大阪市長の教育改革は自虐史観からの脱却目指してるか

 中央政界も無視できない存在となった橋下徹大阪市長。もしも将来、国政に進出し、「橋下首相」が誕生すれば、歴史教育、歴史教科書はどう変わるだろうか。高崎経済大学教授で、教育問題に取り組む日本教育再生機構理事長の八木秀次氏が論じる。

 * * *
 これまで橋下徹氏が自らのイデオロギーや歴史観を系統立てて説明したことはない。だが、記者会見やインタビュー、テレビ番組やツイッターなどで行なってきた断片的な発言から判断すると、間違いなく素朴な保守主義者、健全なナショナリストであり、「戦前の日本はすべて悪」とする自虐史観を否定している。

 例えば、大阪府知事時代の2011年6月にインドネシアを訪問した時、その独立に果たした日本の貢献を感謝されるなど、想像以上の親日感情を示された。この体験を受けて当時のツイッターに次のように書いている。

「僕の世代が受けてきた教育は、こういう事実を全て捨象した極めて一面的な歴史評価だ」「第二次世界大戦について過ちを反省すべきところは反省する。しかし、評価されるべきところはしっかりと評価する。次世代の日本の子どもたちには、しっかりとした教育がなされるべきだ」

 橋下氏率いる大阪維新の会が主導する教育行政基本条例(大阪府ではこの4月から施行、大阪市では5月の議会で継続審議)、3月10日に発表した「維新の八策 原案」中の教育改革の項のいずれでも、自虐史観について触れているわけではない。しかし、いずれも事実上、自虐史観からの脱却を目指したものである。

 教育行政基本条例は教育に対する政治の権限を強化することを目的のひとつとしており、「維新の八策 原案」でも「教育委員会制度の廃止論を含む抜本的改革」を提案している。これは何を意味するか。

 今の教育は教育委員会が主導しているが、通常5名ずついる教育委員は他に本業を持つ非常勤役員のような存在で、実態としては、教育委員のひとりである教育長をトップとする教育委員会事務局が仕切っている。

 そして、通常、事務局スタッフの半分以上が学校から出向してきた教職員で占められている。必然的に、日教組や共産党系の全日本教職員組合が強い地域ではその影響力を受けやすい。

 こうした実態を踏まえた上で、「教育委員会制度の廃止」まで視野に入れているのだ。

 また、維新の会がもともと提案した教育基本条例案(その後、若干修正され、名称も教育行政基本条例に変更)を起草した、橋下氏のブレーンのひとりである坂井良和氏(大阪市会議員)は、「教育基本条例案は、かつてサッチャーが行なった教育改革を参考にした」と明言している。

 その教育改革は、実はイギリス版自虐史観からの脱却を図ったものだった。例えば、改革に乗り出す前の1985年に使われていた、ある11~14歳向け歴史教科書には次のような図版が載っている。

「植民地支配で肥大化した大英帝国」というタイトルのもと、アジアやアフリカを搾取することで財を蓄えたイギリスを太った豚にたとえたイラストや、「殺人国家イギリス」というタイトルのもと、夥しい数の頭蓋骨で領土が形作られたイギリスの地図である。

 これを憂えたサッチャーは、植民地支配は植民地に恩恵をもたらした面もあることを教えるなど、子供たちが自分たちの国家と民族に誇りを持てるような教育内容に変えたのである。

 橋下氏が公の場でサッチャーの教育改革について語ることはないが、当然、こうした内容を理解している。

※SAPIO2012年5月9・16日号

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