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CA社長・藤田晋氏 「仲良しサークル的ノリは皆不幸になる」

「僕は結構常識人というか、一人で本を書くとイイことを言っていても頭に残らない気がして。真っ当すぎて(笑い)。その僕が、言葉の選び方が刺激的な見城さんと組ませてもらったことは、言葉の届き方の点で相乗的効果を上げていると思う。それが一ビジネス書愛読者としての、僕の意見です」

 と、幻冬舎代表取締役社長・見城徹氏(61)との共著『人は自分が期待するほど、自分を見ていてはくれないが、がっかりするほど見ていなくはない』に関して、サイバーエージェント代表取締役社長・藤田晋氏(38)は語る。昨年の話題作『憂鬱でなければ、仕事じゃない』の第2弾でも、見城氏の直球変化球を取り交ぜた主張に藤田氏がしなやかに好レシーブを返し、見事なラリーが展開する。

「とんでもない。奇問難問に必死で食らいつく、受験生みたいでした(笑い)」

 業種も世代も違う両者の対話は仕事論から人生論に及び、個性の違いこそあれ率直さにおいて共通する。自身〈「率直に人と付き合うこと」の大切さ〉を繰り返し説いたと本書を振り返り、“ITバブルとその崩壊を生き抜いた若き創業社長”の意外な一面を垣間見せる。それにしても長い表題だ。藤田氏は語る。

「今回は打ち合わせを極力せず、見城さんから届く文章に僕が自分なりの答えを書きました。このタイトルはその中にあった言葉の一つ。確かにいい言葉だなあとは思いましたが、さすがに賛否両論あり、決まった時は僕も驚きでした。ただ結果的には前作を全く踏襲していないし、安易な続編を嫌う見城さんらしい斬新な書名になっている。その辺りの感性はさすがです」

 第一章「自分を追い込め」だけでも〈考えに、考えて、考え抜け〉〈今日と違う明日を生きろ〉〈縛りがあるから面白い〉〈居心地の悪いところに宝あり〉等々、見城氏自筆の言葉が並び、それに続く文章もとにかく熱い。

 対して〈人間は、ある時たまたま決まったことに、ずっと支配されてしまう特性を持っています〉〈不安をエネルギーに変えることは、リーダーに必要な能力の一つ〉等々、藤田氏の返しは慎重で、見城氏の意見を否定も肯定もせずに深めたり、角度を変えたり、自在な対応力が印象的だ。

「例えば竹下登・元首相の〈汗は自分でかきましょう。手柄は人にあげましょう〉に、氏家齊一郎・元日本テレビ社長が〈そしてそれを忘れましょう〉と付け加えた話とか、見城さんは引用が的確で面白い一方、〈秘書にレストランを予約させるな〉なんて僕も一言読んだだけじゃ意図がわからなかった(笑い)。その核心を深く理解した上で僕なりの考えをまとめ、結果として双方の本質と本質が共鳴する形になればいいなあと。

 僕はリアルなものは何かということが大事とよく社員に言います。例えばロングテールという言葉一つとっても、今起きている現象に外部の人間が加えた解説を真に受けて経営するのは意味がない。見るべきはその現象の実質、本質で、その中から次のビジネスも生まれ得る。相手と率直に向き合う大切さという意味では、ビジネスに関しても全く同じだと思います」

 自身、起業を志した当初からビジネス書を読み漁り、特にJ.C.コリンズ他著『ビジョナリー・カンパニー』(1995年)など数冊に関しては今も手許に置いて何度も読み返しているという。

「同じ内容でもその時々の状況で考えることが違い、あえて遅読を心がけている。特に日本的経営や過去の産業の成功譚など、僕らの業界と関係なさそうな本に気づかされることは多く、経営戦略というのは普遍性と可変性のバランスを常に求められる。だから最先端の経営手法を鵜呑みにしてもダメで、既存の社会風土に迎合し過ぎてもダメ。

 時々自由でフラットな組織を徒に賞賛する人がいますが、組織に指揮系統は厳然とあるべきで、仲良しサークル的なノリでは結局収益も待遇も改善せず、みんなが不幸になるだけ。つまり自由という言葉一つとっても本質を捉え損ねるとかえって不自由な結果を生む。うちの会社は服装も自由で風通しがよいけど、社長という役割は明確なんです」

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2012年5月25日号

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