国内

オリンパス事件を解明した証取委 その実力で奇跡の人員増実現

“最強の捜査機関”として権力者を脅かしてきた東京地検特捜部が凋落の一途を辿る一方で、企業による粉飾決算やインサイダー取引など、複雑・巧妙化する経済事件捜査の主導権を握る存在として「証券取引等監視委員会」の実力が注目されている。経済事件を一刀両断する新戦力を、経済ジャーナリストの森下毅氏が解説する。

 * * *
 1000億円以上の資産を水増しした光学機器大手「オリンパス」の粉飾、年金資金約2000億円を消失させた「AIJ投資顧問」……。いずれも近年では最大級の経済事件に間違いなく、前者は東京地検特捜部、後者は警視庁捜査2課がそれぞれ手がけメディアの脚光を浴びている。

 実は、2つの巨額経済事件の解明を実質的に担ったのは証券取引等監視委員会(証取委、SESC)である。オリンパス事件では海外当局の協力を得て損失隠しの枠組みを詳細に解明。AIJ事件では他ならぬ証取委の検査が事件の端緒を開いた。そんな彼らの実力について、証取委を長年、取材してきたジャーナリストのA氏はこう解説する。

「(証取委は)特捜部や捜査2課のような逮捕権限を有していないため、派手な捕物劇を展開することはない。しかし、国内外に張り巡らした情報網を武器に、金融・証券取引情報を常に監視・掌握し、凄腕の調査官たちがインサイダー取引や粉飾決算の摘発を量産化している。今や、その実力は特捜部や捜査2課を凌ぐと言っても過言ではない」

 A氏が解説する通り、証取委は不正の摘発に際して独自の検査や調査、事情聴取などを行なう。不正が認められた場合、罰金に相当する課徴金を課すよう金融庁に勧告したり、悪質と認められた場合には強制調査を行なって検察庁に告発している。

 今年7月で発足から21年目を迎える証取委は、米証券取引委員会(SEC)をお手本に作られたことから「日本版SEC」と呼ばれるが、人員は本家SEC(約3900人)の10分の1に過ぎない。だが、注目すべきは、職員削減が続く霞が関の官僚組織の中では珍しく毎年増えていることだ。今では発足時(84人)に比べて実に5倍近く、驚異的な増員である。

 霞が関で「奇跡」と言われる人員増を可能にした理由は、その仕事ぶりにある。とりわけ、元特捜検事で福岡高検検事長を務めた佐渡賢一氏が委員長に就任した2007年以降の摘発の増加には目を瞠るものがある。

 特捜検事時代から“カミソリ”の異名を持つ佐渡氏が証取委で掲げるのは「監視の空白地帯を作らない」のスローガンだ。国内外を問わず不正を行なう投資家に目を光らせるという意味で、これまで監視が十分でなかった海外案件にも力を入れている。

 例えば、2009年4月には、シンガポールに開設された英領ヴァージン諸島の法人名義口座を使ってインサイダー取引を行なった投資事業会社「ジェイ・ブリッジ」元会長を摘発した。これは、証取委が検察に告発した初のクロスボーダー事件(国境を越えた事案)でもあった。

 また、国内では都市圏のみならず、地方にも目を光らせている。2010年10月には大分県在住の投資家による相場操縦事件、最近では今年3月に兵庫県在住の主婦によるインサイダー取引事件をそれぞれ暴いた。「監視の空白地帯」は確実に埋まってきている。

※SAPIO2012年6月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

決死の議会解散となった田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
「市長派が7人受からないとチェックメイト」決死の議会解散で伊東市長・田久保氏が狙う“生き残りルート” 一部の支援者は”田久保離れ”「『参政党に相談しよう』と言い出す人も」
NEWSポストセブン
石橋貴明の現在(2025年8月)
《ホッソリ姿の現在》石橋貴明(63)が前向きにがん闘病…『細かすぎて』放送見送りのウラで周囲が感じた“復帰意欲”
NEWSポストセブン
ヘアメイク女性と同棲が報じられた坂口健太郎と、親密な関係性だったという永野芽郁
「ずっと覚えているんだろうなって…」坂口健太郎と熱愛発覚の永野芽郁、かつて匂わせていた“ゼロ距離”ムーブ
NEWSポストセブン
新潟県小千谷市を訪問された愛子さま(2025年9月8日、撮影/JMPA) 
《初めての新潟でスマイル》愛子さま、新潟県中越地震の被災地を訪問 癒やしの笑顔で住民と交流、熱心に防災を学ぶお姿も 
女性セブン
羽生結弦の被災地アイスショーでパワハラ騒動が起きていた(写真/アフロ)
【スクープ】羽生結弦の被災地アイスショーでパワハラ告発騒動 “恩人”による公演スタッフへの“強い当たり”が問題に 主催する日テレが調査を実施 
女性セブン
自民党総裁選有力候補の小泉進次郎氏(時事通信フォト)
《自民党総裁選有力候補の小泉進次郎氏》政治と距離を置いてきた妻・滝川クリステルの変化、服装に込められた“首相夫人”への思い 
女性セブン
ヘアメイク女性と同棲が報じられた坂口健太郎と、親密な関係性だったという永野芽郁
《初共演で懐いて》坂口健太郎と永野芽郁、ふたりで“グラスを重ねた夜”に…「めい」「けん兄」と呼び合う関係に見られた変化
NEWSポストセブン
千葉県警察本部庁舎(時事通信フォト)
刑務所内で同部屋の受刑者を殺害した無期懲役囚 有罪判決受けた性的暴行事件で練っていた“おぞましい計画”
NEWSポストセブン
秋篠宮家の長男・悠仁さまの成年式が行われた(2025年9月6日、写真/宮内庁提供)
《「父子相伝がない」の指摘》悠仁さまはいつ「天皇」になる準備を始めるのか…大学でサークル活動を謳歌するなか「皇位継承者としての自覚が強まるかは疑問」の声も
週刊ポスト
ヘアメイク女性と同棲が報じられた坂口健太郎と、親密な関係性だったという永野芽郁
《「めい〜!」と親しげに呼びかけて》坂口健太郎に一般女性との同棲報道も、同時期に永野芽郁との“極秘”イベント参加「親密な関係性があった」
NEWSポストセブン
2泊3日の日程で新潟県を訪問された愛子さま(2025年9月8日、撮影/JMPA)
《雅子さまが23年前に使用されたバッグも》愛子さま、新潟県のご公務で披露した“母親譲り”コーデ 小物使い、オールホワイトコーデなども
NEWSポストセブン
すべり台で水着…ニコニコの板野友(Youtubeより)
【すべり台で水着…ニコニコの板野友美】話題の自宅巨大プールのお値段 取り扱い業者は「あくまでお子さま用なので…」 子どもと過ごす“ともちん”の幸せライフ
NEWSポストセブン