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作中で出世や勲章風刺した水木しげる 叙勲の知らせに大喜び

 松田哲夫氏は1947年生まれ。編集者(元筑摩書房専務取締役)。書評家。浅田彰『逃走論』、赤瀬川源平『老人力』などの話題作を編集。1996年に TBS系テレビ『王様のブランチ』本コーナーのコメンテーターになり12年半務めた松田氏が、「使い走りで原稿を取りに行った」という水木しげる氏の想い出を語る。

 * * *
 水木プロの内部に入って、仕事ぶりを見ていると、水木さんはただの奇人ではないことがわかってきた。彼は、今の文明社会を痛烈に批判し、南の島の人たちのノンビリした暮らしに憧れ、妖怪たちとともに生きることを、驚くほど純粋に夢見ている。その一方では、作品を発表し続ける装置としてのプロダクション運営も、しっかりこなしているのだ。この二つが矛盾なく共存していることほど不思議なことはない。

 水木さんのところにやってくるアシスタント志望の若者は、水木作品に惹かれてくるだけあって、「社会に受け容れられない人」が多いという。そういう癖の強い人たちを仕事のシステムに組み込んでしまう水木さんの経営手腕はなかなかのものだった。無能で仕事を怠けているアシスタントを首にしたら、柱にしがみついたので、引きはがして放り出した、と困り顔で話してくれたこともある。

 それから、水木さんは、漫画作品の上では、出世とか勲章とかにあくせくする人間の愚かさを辛辣に風刺していた。ところが、自分に叙勲の知らせが来ると、チンドン屋さんのような服装に身を包んで喜色満面で出かけていったらしい。その愛嬌たっぷりの写真を見ていると、「水木さんだからな」と納得させられてしまった。

※週刊ポスト2012年6月1日号

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