独裁国家の中国ではなぜかくも熾烈な権力闘争が展開されるのか? その背景には、法治なき共産党支配が生む“不正蓄財文化”がある。中国国内事情に詳しいジャーナリストの相馬勝氏が報告する。
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「薄熙来はまさに紅い皇帝だった。共産党一党独裁体制の中国では、地方の党最高幹部は、その地方の皇帝なのだ」
こう語るのは、重慶市トップや党政治局員などの職務を突然解任された薄熙来氏(62歳)をよく知る中国人ジャーナリストだ。取材を通じて、薄氏の人柄や生活など「プライベートな面も見てきた」という。薄氏の重慶の自宅の様子を次のように描写する。
「重慶市街を見下ろす小高い丘の上に屋敷があり、鬱蒼とした竹林に囲まれていた。広々としたホールで待たされていると、召使いのような男性が現われ『こちらへ』と案内された。部屋がいくつもある、まさに『王様の邸宅』といった豪華な作りで、廊下にはところどころに古い絵画が飾られていた。
建物は1棟だけでなく、棟続きにつながっている次の建物に入ると、すべてが竹作りで、見る者すべてを威圧するような、歴史を感じさせる応接間があり、そこに薄熙来が待っていた」
薄氏は古都・重慶を代表する豪邸を自宅として使っていたのだろうが、ここは1945年8月、日本軍が降伏後、毛沢東と蒋介石が中国共産党と国民党による国共合作を話し合った歴史的建造物でもある。まさに重慶の“皇帝”にふさわしい居宅といえる。
薄氏が“紅い皇帝”であることを思わせるのは自宅ばかりではない。不正蓄財の額もまさに桁外れだ。当初、米ブルームバーグ通信が約110億円と伝えたものの、その後、香港メディアなどによって約1000億円、そして4800億円に膨れ上がった。
また、薄氏が重慶市トップとなって、全国的にその名を広めたのが「打黒」と呼ばれるマフィア撲滅運動だが、市当局がマフィアとつながっていたとして逮捕された経営者から没収した資産は1000億元(約1兆3000億円)を下らない。
それらが薄氏の推進した市の緑化事業や低所得者向け住宅建設計画などの原資になったとみられるが、一部は薄氏の個人的な不正蓄財に回されたことも否定できない。
その使い道の一つの象徴が、薄氏の息子、薄瓜瓜氏(24歳)の海外豪遊生活だろう。同氏は英オックスフォード大学を卒業後、米ハーバード大学ケネディスクール(大学院修士課程)に進んでいるが、豪華マンションに居住し、高級車を乗り回していた(ポルシェとフェラーリが報じられたところ、「フェラーリには乗っていない」と本人が否定。ポルシェには乗っていたわけだ)。ネット上では、酔った瓜瓜氏が白人女性たちと戯れる写真までが暴露された。
これらの膨大な費用が不正蓄財から賄われたことはほぼ間違いない。なぜなら、党機関紙「人民日報」によると、薄氏の月給は公式には1万元(約13万円)だからだ。
※SAPIO2012年6月6日号