ライフ

被災地走る国道45号は地元建設会社の自発的作業で復旧した

【書評】『命をつないだ道 東北・国道45号線をゆく』(稲泉連/新潮社/1575円)

【評者】関川夏央(作家)

 * * *
 稲泉連が気仙沼を訪れたのは、大震災の一か月後である。惨状は息をのむばかりだった。だが被災地を移動するうち、瓦礫に覆われ尽くした沿岸部に「車の通れる一本の道だけがいつも線のように通っていて、町と町とを確かにつないでいること」に強い印象を受けた。 

 それは青森から仙台につづく海岸の国道45号線だった。破壊された道がどのように「啓開」され、復旧したのか著者は知りたく思った。

 災害直後は、助かった誰もが思考停止の状況だった。携帯を含め、外部との連絡は断たれた。それでも道路を車が通れるようにしなくては、復旧どころか行方不明者の捜索も被災者救援もできない。ことは急を要した。国や県の依頼業者は津波警報発令中は作業を行なうことができない。

「これはもう仕事ではねえ、人としてやんなきゃなんねえことなんだ」

 最初に着手したのは地元の小さな建設業者などだった。そんな動きは、被災各地で自然に起こった。釜石では、内陸部と結ぶ県道35号から海岸を走る高架の三陸自動車道への取り付け道路が彼らの自発的な共同作業で建設され、三月一三日朝、完成した。このようにして海岸を走る国道はつながりはじめ、やがて内陸からの道路と連絡した。

 この本を読みながらつい泣いてしまうのは、そこに行政官、自衛隊、機動隊、消防隊の責任感と能力と献身のほか、「郷土を守ろうとした地元の人々の強い意識」がつたわるからだ。「想定外」という言葉を一度も使わぬ「普通の人々」が「すべきことを粛々と行なう」姿に感動するからだ。これがある限り日本は大丈夫と思われてくるからだ。

 かつて、稲泉連の二六歳の仕事『ぼくもいくさに征くのだけれど』を熟読する機会があった。それは十分によい本だった。だが七年後のこの作品は、書き手としての著しい成長を感じさせ、それも私の喜びであった。

※週刊ポスト2012年6月1日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

映画『アンダンテ~稲の旋律~』の完成披露試写会に出席した秋本(写真は2009年。Aflo)
秋本奈緒美、15才年下夫と別居も「すごく仲よくやっています」 夫は「もうわざわざ一緒に住むことはないかも」
女性セブン
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
日本初となる薬局で買える大正製薬の内臓脂肪減少薬「アライ」
日本上陸の内臓脂肪減少薬「アライ」 脂肪分解酵素の働きを抑制、摂取した脂肪の約25%が体内に吸収されず、代わりに体内の脂肪を消費
週刊ポスト
専修大サッカー部を辞任していた源平監督(アフロスポーツ)
《「障害者かと思った」と暴言か》専修大サッカー部監督がパワハラ・経理不正疑惑で辞任していた 大学は「警察に相談している」と回答
NEWSポストセブン
日本人パートナーがフランスの有名雑誌『Le Point』で悲痛な告白(写真/アフロ)
【300億円の財産はどうなるのか】アラン・ドロンのお家騒動「子供たちが日本人パートナーを告発」「子供たちは“仲間割れ”」のカオス状態 仏国民は高い関心
女性セブン
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
女性セブン
日本製鉄によるUSスチールの買収計画
【日本製鉄のUSスチール買収問題】バイデンもトランプも否定的だが「選挙中の発言に一喜一憂すべきではない」元経産官僚が読み解く
NEWSポストセブン
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
NEWSポストセブン
バドミントンの大会に出場されていた悠仁さま(写真/宮内庁提供)
《部活動に奮闘》悠仁さま、高校のバドミントン大会にご出場 黒ジャージー、黒スニーカーのスポーティーなお姿
女性セブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
わいせつな行為をしたとして罪に問われた牛見豊被告
《恐怖の第二診察室》心の病を抱える女性の局部に繰り返し異物を挿入、弄び続けたわいせつ精神科医のトンデモ言い分 【横浜地裁で初公判】
NEWSポストセブン