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オウム麻原彰晃死刑反対の森達也氏 最新作テーマはオカルト

 世の中の“非科学的”で“非現実的”な現象に対し、〈インチキ〉と一蹴するのは簡単だ。だがその肝心の科学の中身となると私たちの理解はアヤシイもので、頭ごなしに退ける否定派も、逆に鵜呑みにする肯定派も、実は相当インチキといえる。

 一方、森達也氏(56)の最新刊『オカルト』のアプローチは少々違う。2002年の話題作『職業欄はエスパー』に引き続き、スプーン曲げやダウジング、心霊研究や超心理学者など、各種超常現象の関係者に取材を重ね、なぜ人はそれを胡散臭いと感じ、一方では惹かれてしまうのか、むしろ人間心理の不可思議さを浮き彫りにする。そして副題にもある〈現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ〉の奇妙な関係性に、分析を試みるのだ。

「このジャンルについては、ほとんどの人が信じる・信じないの二元論を前提にして、その『あいだ』を捨象してしまっている。でも実質はその『あいだ』にあるのでは、と思うんです。淡くてわかりづらい領域です。だからこそ大事なのだ、と感じています」と森氏は語る。

 元々は1993年に『職業……』をドキュメンタリー番組として企画し、その後オウム事件の余波で5年もの放送延期を強いられた森氏は、自身の立ち位置をこう綴る。

〈オカルトがあるかないかの二元論に埋没することがどうしてもできず、結局はその狭間(わからない)を定位置にしている〉
〈曖昧さを持続することは、実のところけっこうつらい〉
〈でも断定できない。どうしても片端に行けない〉……。

「それでも最近はなるべく結論を出すようにしていて、『A3』(講談社ノンフィクション賞受賞作)では、今の状況の麻原を死刑にすべきではないと主張しました。当然ながら風当たりは強いです。受賞に激しく抗議した人たちもいますが、麻原を極悪人にしないと破綻する彼らの論理こそ、オウム事件以来の社会の二元化を象徴していると思います。死刑存置か廃止か等、わかりやすさに回収される二元論は、直視を回避します。オカルトに対するこの社会の立ち位置も同様です」

 オカルトの語源はラテン語の「occultus」で、意味は隠されたもの。〈ならば隠した主体は誰なのか〉と森氏がまず注目するのが〈見え隠れ〉とも言うべき現象だ。日本の超能力研究は1910年、東京帝大・福来友吉博士による〈千里眼(透視)実験〉に端を発し、前作にも登場する元超能力少年、秋山眞人、堤裕司、清田益章の3氏も含め、その能力は直視や接写を嫌う傾向にあった。

 また心霊現象でもUFOでも〈証拠を見せろという段になると、必ずそれが見つからない〉と話す関係者は多く、〈人目を避ける。でも時には人に媚びる〉、それがオカルトの特徴なのだ。

「機材が壊れたりスタッフに事故や災難が相次いだりというのはよく聞く話で、何か大きな力が働いているんじゃないかと思うことは、僕自身、ないわけじゃない。でもその多くが科学的に説明できることも確かです。

 ただ僕はドキュメンタリーの人間だからか、自分の筋書きを現実が超えてくれるとラッキーと思う部分があって、思い通りにならない時の方がいい物ができる。少なくとも僕には解釈の道筋を親切に示した作品より、安易な解釈を拒む現実の方が面白い。結果的に、人が直視したがらない領域をテーマにすることが多くなるのかもしれないですね」

〈だから惑う。悩む。同じ回路をぐるぐる回る〉と、なればこそ現場を見に行く森氏は、再会した清田氏に編集者も同席する目の前でスプーンを易々と曲げられ、ある常連客の死後、〈四時四〇分になると、必ずのように扉が開くんです〉という鮨屋の自動ドアが開くのもその目で確かめた。一方、恐山や心霊スポット・八柱霊園では森氏は何も感じないが、同行した秋山氏には何やら見えるらしく、読み進めながら迷路は深まるばかりだ。でも明らかに目差す方向がある。

「見えると言う人の視覚は客観的に検証できない。科学的に説明できないならば、すべてはトリックや錯覚だと考える方が〈健全〉なんでしょうけどね。でも彼らと20年付き合ってきた僕の率直な実感としては、99.9%はトリックや錯覚だとしても、どうしても合理的に説明できない現象は確かにあります。

 ニュートン以降の古典物理学において設定された『すべての現象は科学で解明できる』という前提は、量子論の登場で再び混沌とし始めた。今僕らがあり得ないと思っていることが解明される可能性もあれば、わからないままの可能性もあるんです。だからせめて目を背けるのはよそう、解明できることまで解明されなくなるかもしれないし、何よりも世界を自ら矮小化してしまってはつまらない。そんな思いで書いています」

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2012年6月8日号

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