スポーツ

女子バレー眞鍋監督 危機ではiPadでなく選手の目を見ての声

 日本女子バレーが五輪出場を決めた世界最終予選。手に汗を握るシーンで、眞鍋政義監督の手にはいつもiPadがあった。危機的状況でタイムの時にも、監督はしばしばiPadを見る。だが、データ分析が女子バレーの「最高の切り札」なの? と、作家で『五感のチカラ』著者の山下柚実氏は疑問を呈する。以下は、山下氏の視点である。

 * * *
  世界最終予選では4位に滑り込み、五輪出場を決めた日本女子バレー。お茶の間でもハラハラドキドキ、際どい試合の連続でした。

「世界一を目指すためになくてはならないもの それは世界一のデータと渡辺啓太というアナリストだ」。全日本女子バレーボールチーム・眞鍋政義監督の言葉です。

 日本の女子バレーが、五輪で「金メダルを狙う」と発言できるほど強くなったのは、データーバレーのおかげ、という説が有力です。刻々と変化する情報を収集・分析し、作戦を立て、監督の意志決定に有益な情報を届ける「データ分析」とそのアナリストの存在が大きいとか。

  たしかに、先日のロンドン五輪世界最終予選でも、手に汗を握るシーンで、眞鍋監督の手にはいつもiPadがありました。iPadはこの監督のトレードマーク。そこにはリアルタイムのデータが詰まっているらしい。
 
  たとえばその日のアタック決定率が数字で表示される。データを見て対処を変えていく。時には試合中に選手にiPadの画面を見せて、話をすることもあるそうです。

  データ分析力の有効性を示す一例が、「フローターサーブ」。眞鍋監督は大学の研究室に依頼し、新しいボールの特性を分析して、変化しやすいスピードを割り出したそうです。その結果、「ジャンピング・フローターサーブが最適」とわかったとか。

 選手たちには、それまでのサーブをフローターサーブに変更させ、見事に得点を稼ぎ出しました。データ分析の力がよくわかる事例です。
  
 しかし、スポーツは同時に、人間のドラマでもある。論理的なデータを活かすべきシーンと、瞬間的な動物的判断や人のメンタル的要素に勝負をかけるシーン、両方があるはず。
 
  データ分析が、はたして女子バレーの「最高の切り札」でしょうか? 今回の際どい試合を見ながら、素朴な疑問を抱いたのは私だけでしょうか?

 エース・木村沙織がアタックを打っても打っても決まらないシーンが続く。顔をしかめる。下をむく。暗いムードが漂う。世界一高い技術を持つと言われるセッターの竹下佳江のトスが、不調になる。思うように上がらない。単調な繰り返しに陥る。

 危機的状況で、タイム。そんな時にも、監督はしばしばiPadを見ているのです。
 
 これまで過酷な練習を重ね、すでに高い技術を習得している日本の選手たち。危機に直面し持てる力が発揮できず、どんよりとしたムードに包まれた時、データ画面よりも見るべきものはないでしょうか。

 選手の目をしっかりと見て、ムードを一転させる監督の人間力、コミュニケーション力、瞬間の勝負勘といったものが期待されているのではないでしょうか?

 気持ちを盛り上げ、切り替える対処。落ち着き・沈静になる言葉。チームとしての共感・まとまりを創り出す指示。試合中の監督の仕事は、選手の感情のコントロールでもあるはず。

  監督が選手の表情から「データ」を読み取る以上に、iPadのデータを眺めているとすれば……。「五輪でメダルを狙えるだろうか」と、ふと不安になりました。 

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン