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性風俗産業 一般的衛生基準で「サービス」と呼ぶに値しない

 障害者への射精介助を行う非営利組織・ホワイトハンズ代表の坂爪真吾氏は、東京大学在学中に性風俗業界の研究を行なった。その研究調査の過程で、「性風俗=ジャンクフード」であることを発見する。それはどういうことなのか、坂爪氏の新刊『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館101新書)で、以下のように解説している。

 * * *
 性風俗産業は食べ物でたとえると「ジャンクフード」である、と私が感じた理由は以下の3点です。
 
 1つ目の理由は、「美味しいけど、不健康」。性風俗業界は、男性客の性的満足の最大化と、短期的な利益の最大化のみをひたすら追求する業界であり、そこには、社会性のあるサービスをつくるという公共意識、働く女性の労働環境を守るという権利擁護の意識、性病の蔓延を防ぐという衛生観念は、ほとんど感じられませんでした。

 大多数の店舗では、女性に対する教育や研修は「時間とカネがもったいないから」「どうせすぐ辞めるから」という理由、そして「素人信仰」があるため、全く行われていませんでした。
 
 衛生管理に関しても、全従業員に性病検査を義務付けている店舗もありましたが、「即尺サービス」という、文字にするのもはばかられるような、衛生的にみると自殺行為としか思えないサービス(気になる人は、ネットで検索してみてください)を売りにしている店舗も、数多くありました。
 
 さらに、そうした不衛生極まりないサービスを実施していることが、男性客から見ると「優良店」の基準になっていました。つまり、性風俗の世界で提供されているサービスは、一般的な衛生基準や品質基準に照らせば、そもそも「サービス」と呼ぶに値しない代物なのです。
 
 にもかかわらず、提供者側・利用者側双方の知識の欠如によって、サービスでも何でもないものが「サービス」として認識され、提供され、利用されてしまっているために、多くの不幸が起こっているのでは、と感じました。
 
 2つ目の理由は、「素材の産地が不明」。普通の企業であれば当たり前の情報公開が、性風俗業界では、まともに行われていません。経営者・女性従業員は全て偽名・匿名で、連絡先は携帯番号のみ、という店舗が大半でした。

 3つ目の理由は、「中毒の危険がある」。性風俗の世界で長年働いていると、主に経済的な理由により、性風俗以外の世界で働けなくなってしまう例が多いのです。仮に、性風俗の世界から足を洗ったとしても、再就職先を見つけるのは難しく、結局出戻ってくる女性も大勢いました。風俗嬢のメンタルヘルスの問題や、男性客によるストーカー被害の問題も、深刻でした。

 ここで、素朴な疑問が生じました。人間にとって、性は、食事や睡眠、排泄と並ぶ、基本的な生活行為であり、自尊心の基盤となる大切な要素です。それなのに、なぜ、性に関するサービスは、不健康な「ジャンクフード(=性風俗)」しか存在しないのか?

 ジャンクフードだけではなく、「毎日当たり前に食べられる、普通のご飯」や、「栄養バランスのとれた、健康食品」のようなサービスが、必要なのではないだろうか。つまり、「ジャンクフード(=性風俗)が悪い」のではなく、「ジャンクフード(=性風俗)しかない」ことが問題である、という結論に達しました。

※坂爪真吾/著『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』より

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