国内

脱原発つぶやく毎日記者 御用ジャーナリストとの批判に反論

「原発事故について、正しい情報を身につけて欲しい」。毎日新聞元科学環境部部長の斗ヶ沢秀俊さんのツイートが話題である。科学的に不確かな記事であれば自分の会社の記事にでも辛辣に斬り込み、データを地道に伝え続ける科学記者としての姿勢に共感を持つ人も多い。斗ヶ沢さんに「正しい原発事故ニュースの見分け方」を聞いた。(聞き手=ノンフィクション・ライター神田憲行)

 * * *
――原発事故による放射線関連のニュースについて、斗ヶ沢さんが解説するツイートがネットで話題になっています。ツイッターはいつごろから利用されているんですか。

斗ヶ沢 アカウントは以前から持っていましたが、「何々なう」なんて興味ないからずっと見なかったんです(笑)。原発事故から一週間後の3月18日に「記者の目」(新聞記者個人の視線で書く毎日新聞の名物コーナー)で「事態を冷静に見よう」と書いたあと、もっと記事が書きたいと思いました。そんなときに後輩記者からから「ツイッターでやればいいじゃないですか」と勧められて、「140字でやっていくか……」と書き始めました。

 いまはツイッターで質問が寄せられたら、実名でプロフィールがしっかり書いてある人には複数回、匿名の方には1回と自分のルールを決めて、回答するようにしています。

――ツイートでは所属される毎日新聞だけに止まらず、他紙の記事についても「これが一面トップか」などと辛らつに批評されることがあります。社内の他の人から何か言われませんか。

斗ヶ沢 なにも言われたことはありません。毎日新聞の自由度の高さに感謝しています。

――一方で、原発事故による被曝量は健康影響の出ないレベルだと語る斗ヶ沢さんを「御用ジャーナリスト」と中傷する人もいます。どう受け止めていますか。

斗ヶ沢 びっくりしました。私は1988年に科学環境部の記者になってから、途中の福島支局長、海外特派員時代を除いて20年近く科学関係の記者をしてきました。チェルノブイリ事故6年後に現地を取材し、高木仁三郎さんの著書に感銘を受けた私は、原発が大事故の起こりうるシステムであり、ウランがいずれは枯渇するという資源的制約から考えても、再生可能エネルギーに移行するまでの過渡的なエネルギー源であると判断しています。だから、1本も原発推進の記事を書いたことがないし、ずっと「脱原発」の姿勢で記事を書き続けてきました。「御用ジャーナリスト」と呼ばれるいわれは全くないのですが、まあ、福島県立医大副学長の山下俊一先生らも「御用学者」と呼ばれているので、その列に並ばさせていただけるなら名誉ですよ(笑)。原発事故での報道を見て、放射線、放射性物質への理解が、記者にも一般の方にも不足していると感じます。

――たとえばどんなところですか。

斗ヶ沢 「放射能」「放射線」「放射性物質」という用語に混乱があります。「放射能」は「放射線を出す能力」のことですが、1954年のビキニ水爆実験のころ、「放射性物質」のことを「放射能」と呼ぶ誤用が広がりました。さらに1974年の原子力船「むつ」の事故では、「むつ」から放射線の一種である中性子線が漏れたことを当時のメディアがみな「放射能漏れ」と表現しています。オフィシャルな文書にもそう残っている。報道機関の理解不足によって「放射能漏れ」と報じられたことにより、事故が実際よりも深刻で影響が大きいかのような誤解が生じました。今回の事故でも、放射性物質のことを「放射能」と表現しているニュースが少なからずあります。

 また、ビキニ水爆実験の際に、核分裂によって生じた放射性物質のことを「死の灰」という呼び方も広がりました。今回の事故で放出された放射性物質を「死の灰」だと言って、脅かしているツイートも見かけます。「放射能」という使い方にあいまいさのある言葉や、「死の灰」という情緒的な言葉は、使うべきではない。私自身は「放射能」という言葉はほとんど使いません。「放射性物質」「放射線」という言葉で十分に説明できますから。

――(WEBを見せながら)たとえば神奈川県で瓦礫処理に反対するグループが趣旨説明の中で、「震災がれきは放射能汚染されています」と主張していますが、これは……。

斗ヶ沢 (見て)科学的に理解されていませんね。岩手県や宮城県の瓦礫に含まれる放射性物質の量は微々たるもので、全く健康影響なんて考えられない。放射性セシウムの量は神奈川県内で発生する廃棄物に含まれるセシウムの量と同等かそれ以下です。瓦礫の持ち込み、処理に反対するなら、神奈川県内のごみの処理にも反対しなければならなくなります。自分たちの勝手な論理と思い込みで被災地の復興を阻害している、ひどい話だと思います。瓦礫が大量に残されたままでは、復興の妨げになるし、周辺の環境悪化、住民の健康被害も考えられます。被災者の立場で考えてほしいと思います。

〈斗ヶ沢秀俊さんプロフィール〉とがさわ・ひでとし。1957年北海道生まれ、東北大理学部物理学科卒後、毎日新聞社に入社し、福島支局長、科学環境部部長などを経た後に、現在は同社「水と緑の地球環境本部」本部長兼編集委員。ツイッターアカウントは@hidetoga

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン