国際情報

香港活動家の尖閣上陸「中国政府の意図なし」と判断する理由

 尖閣諸島をめぐる日中の“対立”。なかには感情的な報道も少なくないが、中国情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏は一貫して「冷静に捉えるべきだ」と警鐘を鳴らしている。

 * * *
 香港の活動家による尖閣諸島上陸事件は、最終的には反日デモという形で中国大陸にも伝播した。

 当初から私はこの週末デモがどの程度の規模まで膨らむのかがこの問題が今後も続くのか否かの分岐点だと指摘してきたが、結果は30都市以上でのデモが起きたものの、それぞれのデモは小さく勢いも感じられなかった。その背景には本来デモの主体となるべき学生が夏休みで帰郷していたこともあるが、やはり大きいのは一般の人々がそれほど大きな関心を示さなかったことにある。

 中国政府の反応が抑制的であったのに加えて、国内のメディアもこの週末デモについては翌日の紙面でもほとんど触れないという不思議な対応だった。

 だが、これは決して意外なものではない。というのも、そもそも香港の活動家たちは私がさまざまなメディアで指摘してきたように、反日の一方で反中国共産党の活動をしているグループでもあり、彼らの意思は決して中国の意思ではないからだ。

 このことは後にリーダーの一人が五星紅旗を焼いている映像が紹介されたことで明らかだろう。一部の日本の新聞は、中国で政治協商会議の委員を務める人物がスポンサーとなっていたことから「中国政府の意図」を勘ぐった記事を載せたが、その劉夢熊には私も取材したことがあるが、首をかしげざるを得ない。そもそも高度に政治的判断がともなう外交問題を名誉職的ポストで実権のない政協の委員ごときが本気で左右できると思っているのか。

 中国を知るものとして、この違和感は大きい。例えば、同じように週末に尖閣に上陸した日本の市議たちの行動を「彼らは市議なのだから、実は野田政権と裏で通じていた」と鬼の首を取ったように報じる中国メディアがあったとしたら日本人はどう思うだろうか。

 私がこんなことを書くのは何も中国を「恐れるに足らない」というためではない。私は2009年に「平成海防論」(新潮社刊)を記し、いち早く尖閣の国有化を主張している。だがそれは誰か一人の政治家の利益になってかえって国益を損ねる今回のようなやり方ではない。真の愛国者ならば黙って国が買い入れ名義を変えるサポートすれば良いのであってパフォーマンスなど必要ない。実際、国は都が言うように「何もしてこなかった」わけではなく、早くから地権者に買い取りを求め、等価交換の条件を持ちかけてきたのだ。

 話が横にずれたが、問題は中国自身もきちんと尖閣に対する戦略を持っているということで、民間の手を借りる必要などないということだ。中国の戦略は水がいつのまにか浸み込むように少しずつ確実に時間をかけて日本の支配に穴をあけるというメニューである。この第1段階は自国漁業監視船による自国の漁船の取締りで、昨年末に一歩を踏み出している。そして次のステップとして日本の取締りを妨害することを次に仕掛けてくるだろう。こうした戦略は静かで気付かれないなかで進めるのが最も効果的だ。つまり周到で確実なメニューを進めている横で、訳のわからない活動家が出てきても迷惑なだけなのだ。

 しかも今回の騒動は中国が嫌うデモを国内で引き起したのだから尚更だ。なかでも深センのデモで毛沢東の顔写真を掲げた映像が見られたのは、現政権にとっても最も警戒すべき〝左派の台頭〟を意味する象徴として警戒の対象となったはずだ。反政府を文字で掲げるのではなく、「官僚腐敗」も「格差」もなかった文革時代を象徴する毛沢東の写真だけを掲げるのであれば表向きには取り締まる理由もないという高等戦術で政府に揺さぶりをかけてきているのだ。

 こうしたデモでさえ日本にはいまだ「政府が裏で……」といった解説が聞かれるのには驚かされる。勉強しなくても言えるこうした言葉は便利だが、残念ながら現実の中国ではもう10年も前に終わった構図である。

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン