国内

正当に稼いだ人間に課税しまくる「格差是正」を落合信彦懸念

 チュニジアの「ジャスミン革命」に端を発する「アラブの春」が結果的に招いたのはイスラム原理主義の台頭だった。作家・落合信彦氏は「革命によって逆に時計の針が巻き戻されてしまった」とした上で、日本で現在発生している官邸前デモをはじめとした一連の“あじさい革命”についてこう指摘する。

 * * *
 今、日本でも毎週金曜日に首相官邸前で脱原発デモが繰り返されている。いつもは羊のように大人しい日本人が、政府の無能さに対して積極的に意思表明をするというのは確かに珍しい。こうした動きをチュニジアでの「ジャスミン革命」になぞらえて「あじさい革命」などとも呼んでいる。

 だが、「ジャスミン革命」やアラブ諸国での「革命」と同様に「あじさい革命」も賛美するには値しない。

 デモやチラシで現実は変わらない。原発問題について、非現実的な反対運動は無責任の誹りを免れない。もし本当に世界で脱原発の流れが進めば、どうなるか。間違いなくオイルや液化天然ガス価格は急騰し、代替エネルギー政策はすぐに破綻するだろう(現に先日発表された今年上半期の貿易赤字は、昨年1年間の赤字を上回った。

 石油と天然ガスの輸入増加が原因の一つであることは間違いない。このままいけば、赤字は膨らみ続け、財政はパンク、税金は上がり、企業は海外に移り、残るのは何でも反対する輩だけ。誰がこの責任を取るというのか)。

 もちろん、チュニジアで独裁者のベン・アリが、エジプトでムバラクが失脚させられたように、野田政権を追い落とすことはできるかもしれない。しかし、政権を倒した後のヴィジョンがそこにあるかが最も重要なことだ。

 ここまで指摘した通り、アラブ世界では独裁者による悪政を倒しても、宗教に基づいた原理主義が力を握る。現在のエジプトは原理主義vs軍部の権力争いとなってしまった。革命の主役だった若者や一般市民はいつの間にかはじき出された。

 もちろん日本でイスラム原理主義が台頭することはない。だが、それに変わりうるのがソーシャリズム(社会主義)だろう。大衆が求める通り、格差是正という名の下に、正当なビジネスで稼ぎを得た人間にどんどん課税していく。そんな人気取り第一の政策が跋扈しかねない。

 すでにその流れは進んでいる。2009年の総選挙で、自民党の古い政治に嫌気が差した国民は、民主党の詐術的なマニフェストに熱狂し、それをマスコミが後押しした。中東で起きている反独裁から原理主義への流れと相似形に見えはしないか。

 中東におけるイスラム原理主義は、さしずめ日本におけるテレビのワイドショーだ。思考を停止し、複合的な判断をせずに、物事を単純な善悪に分ける大衆が欲望を発散し、政治がそれに迎合するならば、それは、成熟した民主主義とはかけ離れた姿だ。

 我々はシリアに連なる一連のアラブの混乱から、その点を学ばなくてはならない。ジャスミン革命も、立ち上がった民衆の一人ひとりは純粋な動機を持っていたかもしれない。しかし結果はカオスだった。リビアでは革命に参加した人々が銃や手榴弾を今も抱えている。まだ革命は終わっていないし、部族間の争いが起こり得ると危惧しているからだ。

 日本人も、一人ひとりが深く考えなければ、いくら動機が正しくても道を誤りかねないことを知るべきである。安易な熱狂に対して私は、敢えて今、水を差したい。

※SAPIO2012年8月22・29日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

優勝パレードには真美子さんも参加(時事通信フォト/共同通信社)
《頬を寄せ合い密着ツーショット》大谷翔平と真美子さんの“公開イチャイチャ”に「癒やされるわ~」ときめくファン、スキンシップで「意味がわからない」と驚かせた過去も
NEWSポストセブン
デート動画が話題になったドジャース・山本由伸とモデルの丹波仁希(TikTokより)
《熱愛説のモデル・Nikiは「日本に全然帰ってこない…」》山本由伸が購入していた“31億円の広すぎる豪邸”、「私はニッキー!」インスタでは「海外での水着姿」を度々披露
NEWSポストセブン
生きた状態の男性にガソリンをかけて火をつけ殺害したアンソニー・ボイド(写真/支援者提供)
《生きている男性に火をつけ殺害》“人道的な”窒素吸入マスクで死刑執行も「激しく喘ぐような呼吸が15分続き…」、アメリカでは「現代のリンチ」と批判の声【米アラバマ州】
NEWSポストセブン
“アンチ”岩田さんが語る「大谷選手の最大の魅力」とは(Xより)
《“大谷翔平アンチ”が振り返る今シーズン》「日本人投手には贔屓しろよ!と…」“HR数×1kmマラソン”岩田ゆうたさん、合計2113km走覇で決断した「とんでもない新ルール」
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の学生時代
《被害者夫と容疑者の同級生を取材》「色恋なんてする雰囲気じゃ…」“名古屋・26年前の主婦殺人事件”の既婚者子持ち・安福久美子容疑者の不可解な動機とは
NEWSポストセブン
ソウル五輪・シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング=AS)銅メダリストの小谷実可子
《顔出し解禁の愛娘は人気ドラマ出演女優》59歳の小谷実可子が見せた白水着の筋肉美、「生涯現役」の元メダリストが描く親子の夢
NEWSポストセブン
ドラマ『金田一少年の事件簿』などで活躍した古尾谷雅人さん(享年45)
「なんでアイドルと共演しなきゃいけないんだ」『金田一少年の事件簿』で存在感の俳優・古尾谷雅人さん、役者の長男が明かした亡き父の素顔「酔うと荒れるように…」
NEWSポストセブン
マイキー・マディソン(26)(時事通信フォト)
「スタイリストはクビにならないの?」米女優マイキー・マディソン(26)の“ほぼ裸ドレス”が物議…背景に“ボディ・ポジティブ”な考え方
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
《かつてのクマとはまったく違う…》「アーバン熊」は肉食に進化した“新世代の熊”、「狩りが苦手で主食は木の実や樹木」な熊を変えた「熊撃ち禁止令」とは
NEWSポストセブン
アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン