国際情報

李明博氏の竹島上陸 政府は国益増進のため活用すべしと提言

 韓国の李明博大統領が竹島を訪問した。韓国の強烈な自己主張を逆手に取って、日本の国益を増大させなければならないと語るのは、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏だ。以下、氏の外交に対する解説である。

 * * *
 8月10日、韓国の李明博大統領が竹島に上陸した。島根県の竹島は、わが国固有の領土であるが、韓国によって不法占拠された状態にあるというのが日本政府の立場だ。

 これに対して、韓国は「『独島』(竹島に対する韓国側の呼称)は、歴史的にも国際法的にも韓国領であることは明白である。しかも、韓国が『独島』を実効支配しているので、日本との間に領土問題は存在しない」という立場を取っている。

 ここで国際常識に基づいて、いかなる状態ならば領土問題になるかについて3つの場合に分けて整理してみよう。

 第一に双方の政府が領土問題は存在すると主張する場合だ。歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の4島からなる北方領土の帰属をめぐる係争があることは、日露両国政府が認めている。従って日露間には、領土問題が存在する。

 第二に双方の政府が領土問題と認めていない場合には、当然だが領土問題は存在しない。日本共産党は、北方4島のみならず、ウルップ島からシュムシュ島までの千島列島18島を含む計22島の日本への返還をロシアに要求せよという立場だ。

 しかし、外交は政府の専管事項であるので、共産党の主張は日本国家の立場にならない。だから千島列島をめぐる領土問題は存在しない。韓国の一部に、長崎県の対馬の返還を要求する動きがある。しかし、韓国政府はそのような要求をしていない。従って、対馬をめぐる領土問題も存在しない。  

 第三に一方の政府が領土問題は存在する、他方の政府が領土問題は存在しないと主張する場合は、どうなるのであろうか。客観的には領土問題は存在するのである。ただし、実効支配している側は、極力、領土問題にすることを避けようとする。なぜならば、領土問題が存在することを認めれば、交渉を余儀なくされ、その結果、何らかの妥協をしなくてはならなくなるからだ。

 その意味で、李明博大統領の竹島上陸でこの問題に日韓両国のみならず、国際社会の関心が集まったことを、日本政府は、わが国益を増進するために最大限に活用しなくてはならない。

 ちなみに二国間関係だけで韓国に領土問題の存在を認めさせることは不可能だ。

 東京大学東洋文化研究所元准教授の玄大松氏は、〈ウィトゲンシュタイン(引用者註 ※オーストリア出身の哲学者で、英国ケンブリッジ大学で教鞭を執り、現代思想に強い影響を与えた)は、疑うことなく信じる知識や反対のことが想像できない命題を「文法命題」(Grammatical proposition)と定義したが、まさに韓国人にとって「独島=韓国の領土」は「文法命題」であり、常に「真」になる恒真式である。〉(玄大松『領土ナショナリズムの誕生 「独島/竹島問題」の政治学』、ミネルヴァ書房、2006年、3頁)と記すが、的確な指摘である。

「独島は韓国領であることは、誰が何と言おうと絶対に正しい」という歴史的な実証性と国際法的根拠を無視した「独島神話」が、韓国人の統合という国内的機能を果たした後、拡張主義的傾向を示している。これに対して歯止めをかけておくことが、日本の国益のためのみならず、北東アジア地域の安定のためにも必要なのだ。

※SAPIO2012年9月19日号

関連キーワード

トピックス

森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
女性セブン
どんな演技も積極的にこなす吉高由里子
吉高由里子、魅惑的なシーンが多い『光る君へ』も気合十分 クランクアップ後に結婚か、その後“長いお休み”へ
女性セブン
日本人パートナーがフランスの有名雑誌『Le Point』で悲痛な告白(写真/アフロ)
【300億円の財産はどうなるのか】アラン・ドロンのお家騒動「子供たちが日本人パートナーを告発」「子供たちは“仲間割れ”」のカオス状態 仏国民は高い関心
女性セブン
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
NEWSポストセブン
わいせつな行為をしたとして罪に問われた牛見豊被告
《恐怖の第二診察室》心の病を抱える女性の局部に繰り返し異物を挿入、弄び続けたわいせつ精神科医のトンデモ言い分 【横浜地裁で初公判】
NEWSポストセブン
バドミントンの大会に出場されていた悠仁さま(写真/宮内庁提供)
《部活動に奮闘》悠仁さま、高校のバドミントン大会にご出場 黒ジャージー、黒スニーカーのスポーティーなお姿
女性セブン
足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
『教場』では木村拓哉から演技指導を受けた堀田真由
【日曜劇場に出演中】堀田真由、『教場』では木村拓哉から細かい演技指導を受ける 珍しい光景にスタッフは驚き
週刊ポスト