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シャープ出資交渉の鴻海創業者“テレビのつまみ”から大成功

 厳しい経営難に喘ぐシャープは、「亀山ブランド」の亀山工場以外にも日本全国に工場を構えている。関東平野の北部・栃木県矢板市もその1つ。作家の山藤章一郎氏が、栃木県矢板市を訪れた。

 * * *
 矢板市の大通りから細道をたどった奥の工場跡で。赤柄シャツのシャープ1次下請けの元社長が応える。「あんた突然来て、シャープどうのこうのって。話す気ぃなんかあるかよ」。不景気の話である。みな、愉快でない。

「いまごろリストラたって。とうに、見通し真っ暗だったんだよ。40年、シャープさんとプリント基板やってきたけど、年商100億ってときもあったけど。いや、話す気ぃなんかねえな」

 従業員50人、8割を外注に出してきた下請けである。最後は、5人になった。ブラウン管から液晶に転じたあと、シャープは新しい設備投資を要請してきた。だが、何億もかけて成り立つのか。シャープと膝詰で話して、従業員を減らし、外注にまわす策で10年乗り切った。

「設備投資してやめるにやめられない何社かまだあってな。シャッター通りになり、人口が激減する。赤字に転落する企業に頼ってきた町の姿とは、こういうことかね」

 矢板市にはいま、放射性物質を含む汚泥の最終処分地候補として、国から白羽の矢も立っている。シャープ創業者・早川徳次氏が著した『私の考え方』で早川翁はいう。

「転機をものにせよ」
「模倣される商品をつくれ」
「5段をかまえよ」―― 一つにつまずけばすぐ第二へ、そして第二がつまずけば第三へと。

 翁は毎年、身寄りのない目が不自由な百余名の老人が暮らすホームを訪ねた。ひとりが謝意を述べた。皆様の声を聴き、いただく品物に触れ、細かく心を用いながら、ひとときを送ってくださるのを肌でしみじみと感じる、と。

「ひがみっぽい私たちにとっては嬉しくて嬉しくて、自分の頬に伝わる嬉し涙が見えるようです」

 翁はこれを肝に銘じ、社員に〈社会公共のため〉と〈感謝の心〉と〈不幸に動じない信念〉〈一日一字の積み上げ〉を説いた。

 徳次少年は学校は2年足らずしか行っていない。字が読めない。そこで毎日一字ずつ、漢字を暗記しようと決心する。一日一字、1年で365文字。2年で730字。3年で1095字。シャープの経営理念は、その一字ずつをかさねるように「誠意と独自の技術をもって」、嬉し涙が見えるといわれるように「広く世界の文化と福祉に貢献する」とある。

 しかしいま技術革新が価格下落を招く自家撞着に陥り、53万円で売りだした電卓は100円ショップで買える。

 台湾、鴻海(ホンハイ)精密工業との出資交渉も難航した。鴻海グループ全体で9兆円を売り上げる郭台銘会長の出発点は、母親から借りたわずかな資金でテレビのつまみをつくる事業だった。100年前、ベルトのバックル〈徳尾錠〉から発した〈早川金属工業研究所〉に、成り立ちがかさなり合うか。

※週刊ポスト2012年9月21・28日号

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