松屋銀座のイベント会場にできた行列。「ベルサイユのばら展」(9月13日~24日)に駆け付けた女性たちだ。
池田理代子著の不朽の名作漫画『ベルサイユのばら』の連載が『週刊マーガレット』で始まったのは1972年。40年を記念して開かれたこの催事では、漫画の原画、アニメのセル画、宝塚で使用された衣裳の展示から、華やかなステージの再現まで、ベルばらの世界を全方位的に展開。「ベルサイユのばら」を愛してきた往年のファンたちのココロを鷲掴みにすること請け合いの、盛りだくさんの内容となっている。
ここ数年、松屋銀座の文化催事は業界でも注目の的だという。
「松屋銀座の催事はハズレがないと評判です。漫画やアニメをテーマにするのがうまく、動員力が群を抜いており、次は何をやるのかと、話題にもなる」(業界関係者)
百貨店の催事には、北海道物産展などモノを売る催事と、絵画など作品を見せる文化催事があるが、松屋銀座が得意としているのは後者だ。最近の例を以下にあげよう。
■「追悼 赤塚不二夫展 ギャグで駆け抜けた72年」(2009.8.26~9.7)
■ミッフィー誕生55周年「ゴーゴーミッフィー展」(2010.4.22~5.10)
■水木しげる米寿記念「ゲゲゲ展」(2010.8.11~8.23)
■アニメ化40周年「ルパン三世展」(2011.8.10~8.22)
文化催事課の担当者に企画の狙いを聞いた。
「2008年から、文化催事として、漫画やアニメの原作ものを年1回、取り上げようという方針を立てました。幅広い層のお客さまに来ていただくためです。最近はネット通販が増加していますから、私どもとしては、まず店に足を運んでいただくことが重要。漫画・アニメの原作企画に限らず、文化催事は、そのための魅力の一つになると考えています」
実際、文化催事は、松屋銀座の集客にとって実になっているようだ。文化催事を含めた全催事で、松屋銀座は年間約60万人を動員する。また、文化催事には関連グッズの販売などの物販コーナーがあり、多いときに、会期通じて1億円を売り上げるという。
かつて百貨店は、西武百貨店が“文化の西武”と呼ばれたように、エンタテインメント性の強い場所だった。だが、不況に伴う低迷で、2011年、百貨店売上高は15年連続でマイナスを記録。文化催事は縮小傾向にあった。しかし、この百貨店冬の時代においてこそ、文化催事に活路を見出すべきだと主張するのは流通コンサルタントの月泉博氏だ。
「百貨店本来の姿に回帰して、セレブ客を掴んでいるところが、いま、業績を回復しつつあります。ショッピングセンター(SC)や駅ビルなどと同じ土俵の上で、ファッションだけで戦っていてはもはや勝ち目はありません。文化催事は、百貨店だからこそできるノブレス・オブリージュなビジネス。好立地や、リテラシーの高い人材も活かせる。差別化を図るために、再び力を入れるべき分野になっていると言えます」
さらに企画においては、ターゲットの重要性を説く。
「百貨店にとって狙うべきは、百貨店に憧れを抱いてきた団塊以上の世代です。若い世代ももちろん重要ですが、一番はシニア層。松屋銀座の催事は、キャッチーで若い世代にも響くものでありながら、シニアまでカバーできている。漫画やアニメといった今日的な題材を、シニア層に結び付けているところが上手いです」
行列をしてでも見たい催事が、百貨店から離れた客を取り戻す起爆剤となりそうだ。