昭和初期に真理子さんの祖父が始めた酒屋は、ほとんど同時に立ち飲みも始めている。
「生まれたときから立ち飲みを見続けていたわけですよ。二人姉妹の長女だから、店を継ぐ流れではあったんです。でも、すんなりというのにちょっと抵抗があり、2年ほどOLをやっていた時期があります。私の反逆時代ってわけですよ。そのときに知り合ったのが主人。お店(酒屋)に入ってもいいと言ってくれましてね」
午後6時を過ぎれば真理子さんも飲み始めると聞いていたので、そんな甘いお話とうまいいか刺しなどを肴に、そろそろこちらもお相伴しようかななどと考えた矢先だった。
「私たちの代でこの店は終わりだと思う」。
突然に真理子さんがそう言った。もしこちらが酔っていたら、一気に醒めてしまうような衝撃発言だ。
「30歳と26歳の息子がいるんだけど、興味がないみたいで店を全然手伝ってくれないのよ。しょうがないかな」
悲しいかな、閉店はすでに覚悟している雰囲気も感じられる。
「本州や札幌から函館に出張してくるサラリーマンにも知られていて、彼らが真っ先に立ち寄る店」(50代)でもあり、「代々の先輩から申し送りされている伝説の店」(30代)でもある。こんな立ち飲みの店を、できれば、永久に残したいのだが…。