国際情報

日本の対中ODA3兆円を評価した中国人文筆家が批判されまくる

 北京空港300億円、上海空港400億円、北京―秦皇島間鉄道拡充870億円、天生橋水力発電1180億円。

 これらは現在に至るまで日本が施した対中ODA(政府開発援助)の実績である。

 中国へのODAが開始されたのは1979年に遡る。当時の大平正芳首相の「より豊かな中国の出現が、よりよき世界に繋がる」の号令で始まった。2010年までの累計は3兆円超だ。

 さぞかし感謝されていると思いきや、日系の商業施設などを次々と破壊する中国国民の姿からはその心を微塵も汲み取ることができない。

 だが、それもそのはず、中国国民にその存在はほとんど知られていない。例えば北京空港ではフロア片隅に「この空港は日本の援助でできた」との小さなプレートがあるだけだ。インフラ整備はあくまで国民の努力の産物として伝えられている。

 そんな中国に北京在住のジャーナリスト・王錦思氏が対中ODAの正しき姿を広めようとしたのは2008年のことだった。

「日本のODAを正当評価」――これは王氏が2008年に政府系雑誌に寄稿したレポートである。

「日本が中国にとって最大の援助国で外国からの援助の66.9%(2000億元=約2.5兆円)が日本からもたらされた」「援助の多くが鉄道、道路、空港などのインフラ整備にあてられた」などと記されている。

 さらには、「中国の転換点は1978年のトウ小平の来日にある」「国民所得倍増計画に強い関心を示したトウが採用した“日本モデル”が現代中国の国家形成に強い影響を及ぼしている」との持論まで展開しているのである。

 王氏は反日思想の持ち主。そんな王氏が「日本のODA」を評価しただけに驚きを持って言論界では受け止められた。

 学生たちを中心に「日本が中国の発展に寄与していたなんて知らなかった」「中国政府はなぜ今まで国民に黙ってきたのか」との声があがったという。その後日本の対中ODAについて研究し、論文を発表する学生たちが続出した。

 上海の大学に勤務する日本人教員はいう。

「王氏が日本のODAを評価したのは親日家に生まれ変わったわけではなく、当時中国が対アフリカODAを増やしていたという背景があったからです。投資、貿易、経済協力の三位一体で進める日本のODAは中国政府の研究対象となっていた。

 王氏は日本式のODAの良いところを学んで、アフリカ諸国との良好な関係を構築せよ、と述べたかったんでしょう」

 この問題については王氏のブログでも度々取り上げられ、ネットでは現在に至るまで読み継がれていた。しかしながら、ここにきて、尖閣問題からの反日デモで一転して悪役になってしまったという。

 現在、王氏のもとにはこんな声が数多寄せられている。〈中国がアフリカ諸国に行なっている心からの無償の援助とは違う〉〈日本の対中支援は、中国市場を活性化させ、より多くの自国製品を売り込む意図のもとで行なわれた〉

 つまりは中国発展の最大の受益者は日本であるという意見。いやはや、まったく困った国である。

※週刊ポスト2012年10月12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
今回のドラマは篠原涼子にとっても正念場だという(時事通信フォト)
【代表作が10年近く出ていない】篠原涼子、新ドラマ『イップス』の現場は和気藹々でも心中は…評価次第では今後のオファーに影響も
週刊ポスト
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
韓国2泊3日プチ整形&エステ旅をレポート
【韓国2泊3日プチ整形&エステ旅】54才主婦が体験「たるみ、しわ、ほうれい線」肌トラブルは解消されたのか
女性セブン