新米のおいしい季節になったが、最近は炊飯器にも「かまど炊き」や「直火炊き」などができる高性能のものが多い。それに対し、88才の料理研究家、“ばぁば”こと鈴木登紀子さんは「それならいっそのこと、お鍋を使って直火でお炊きになってはいかがかと、ばぁばは思うのです」と語る。以下、鍋を使って直火でご飯を炊くコツだ。
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まず、お米を手早く、水が濁らなくなるまで研ぎ、洗います。「お米を研いでいるときは電話が鳴っても出ない」が鈴木家の家訓です。
研ぎ終わりましたら、いったんざるに上げて水けをよく切り、お鍋に入れて水加減をし、1時間ほどおきます。こうして水を充分にお米に吸わせることで、ふっくらとおいしいご飯に仕上がります。
火加減は、かまどで炊いていた時代は「はじめチョロチョロ、中パッパ」といわれましたが、私ははじめから強火にかけます。
お鍋の縁からはみ出さないくらいの強火で5、6分ほど。沸騰して蓋がカタカタと鳴り出しましたら、30秒ほど待ってごくごく弱い火にし、2カップのお米なら10分、3カップなら14分ほどで炊きあげます。
お鍋の音に耳を澄ませてみてください。水っぽい音が消え、プツプツというお米のつぶやきが聞こえてきたら、炊きあがりです。火を止めて、蓋を取らずに9分ほど蒸らして蓋を取ります。これ以上は放っておいたらダメですよ。ふっくらさがなくなって、おいしくなくなりますから。
蓋を開けたときに、ところどころ小さな凹み(私は「蟹の穴」と呼んでおります)ができていたら、上手に炊けた証拠。さっそく木杓子で全体をざっくりと混ぜて余分な蒸気を抜きます。
でもね、ばぁばはちょっとズルをします。混ぜる前に、ご飯の上の方をそっとすくってお茶碗に盛るのです。ここがいちばんおいしいところなのですもの。
生前、「ご飯は炊きたてを食べさせてくれ」が唯一の注文だったじぃじの遺影に供え、あれやこれや話しながらいちばんおいしい旬をいただくひととき。ばぁばにとっては、何にも代えがたい秋の夜長でございます。
※女性セブン2012年10月25日号