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本田宗一郎氏の悲願「空飛ぶシビック」は7人乗りで3.6億円

 ホンダが開発した“自家製ジェット機”の「HondaJet(ホンダジェット)」が、構想段階から実に半世紀を経て、いよいよ量産体制に入る。

 ホンダの航空機事業への参入は、創業者である故・本田宗一郎氏の悲願であり、その熱意は同社がまだ自動車事業に参入していなかった1962年から航空機開発のエンジニアを募っていたほどだ。経済ジャーナリストの福田俊之氏がいう。

「これまで巨額の投資が必要な航空機事業を続けられたのは、歴代の社長が宗一郎氏の遺志を引き継いだからこそ。5代目社長の吉野浩行氏と現社長の伊東孝紳氏は、それぞれ東大と京大で航空工学を専攻していましたし、その他、技術畑出身の社長たちも、みな本業に勤しむ傍ら、『いつかはHondaマークの飛行機を……』という夢を抱いてきたのです」

 機体とエンジンの開発プロジェクトが動き出したのは1986年。その後、20年にわたってコツコツと技術を磨いては試験飛行を繰り返し、2006年にようやく事業化へのGOサインが出た。

 このとき、ジェット機開発を指揮してきた現ホンダエアクラフトカンパニー社長の藤野道格氏は、あまりの嬉しさに宗一郎氏の妻、本田さちさんの自宅まで報告に行ったというエピソードも残っている。

 その後のリーマン・ショックによる世界不況で実際の生産は遅れていたものの、顧客の期待は高かったようだ。

「販売を予定しているアメリカとヨーロッパでは既に100機以上の受注が入っており、来年から順次納入していく」(ホンダ広報)。ここにきて一気に軌道に乗りそうなホンダジェットとは、どのような飛行機なのか。

 定員7名で価格は日本円にしておよそ3億6000万円。主翼上部にエンジンを配置する珍しい設計で、小型・低燃費化を実現させたという。米国内では石油危機時に低燃費をうたって進出してきたホンダ車の「シビック」になぞらえて、「空飛ぶシビック」と呼ばれている。

 だが、今後も順調に量産を重ねて採算ベースに乗せられるのかといえば、いささか不安要素も指摘されている。

「性能的には、燃料搭載量が少なく航続距離が短いため、アメリカの州をまたぐような長距離のビジネス利用で敬遠されなければいいなと……。また、プライベートで購入する短距離利用のジェット機市場は、2008年のリーマン・ショックで伸び悩んだように景気に左右されやすい。その点、ホンダジェットはクラスナンバーワンの高価格がネックになる恐れがあります」(自動車ジャーナリスト・井元康一郎氏)

 確かに3億円以上もする買い物は、いくら将来的に日本で販売される日が来たとしても、飛ぶように売れるとは考えにくい。そこで気になるのは、米欧ではどれほどの富豪が購入予約をしたのかということ。

 2008年、ホンダF1チームのドライバーだったジェンソン・バトン氏(現・マクラーレン)が早々と発注し、「欧州で最初の顧客になる」との噂が出回ったが、果たして真相はどうなのか。ホンダ広報部に聞いてみると、

「2008年5月の段階ではバトン選手からの受注をいただいておりましたが、その後の話し合いで最終的な購入契約には至りませんでした」

 との回答。同年はホンダがF1から撤退した年でもあり、所属チームとの軋轢がバトン氏の購入意欲を失わせた可能性は高い。では、本当の“顧客第1号”は誰なのか。

「購入予定者は主に企業経営者が多く、アメリカではハリウッドで活躍するようなスターもいるとは思いますが、名前も含めた個人情報については一切公表できません」(前出・広報担当者)

 いずれにせよ、世界で躍進する日本の自動車メーカーが、畑違いの航空ビジネスでどこまで通用するのか。その動向を注視したい。

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