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脳梗塞の新治療 中等度以上の患者10例の内7例が歩行可能に

 昨年の脳梗塞による死亡者数は7万人以上で、年々増えている。主な治療は、発症から3~4.5時間以内ならtPA(アルテプラーゼ)を点滴する血栓溶解療法が効果的だが、発症から時間が経過していると効果的な治療法がなく、手足のマヒや失語が残る。

 特に運動マヒは深刻で、重症例では車椅子や寝たきりになるケースも少なくない。運動マヒを伴う重症患者に対して、本人の骨髄から幹細胞を採取し、注射で体内に戻すことで運動機能回復を目指す、新治療の臨床研究が始まっている。

 鶯など春に鳴く鳥は、脳内に、鳴くための神経細胞が毎年再生する。しかし、うまく鳴ける鳥と鳴けない鳥がいるのは、血管が関係している。鳴くための神経幹細胞が再生する前に、脳内に血管が増える。血管が十分にできた鳥は、栄養が補給され神経幹細胞がうまく育ち、素晴らしい鳴き声を発する。つまり神経幹細胞が生着し働くには、血管が必要なのだ。

 これを脳梗塞治療に応用したのが、骨髄幹細胞治療だ。幹細胞は血管新生に必要な複数のタンパク質をだし、さらに自ら血管内皮や血管の細胞になる働きをする。動物実験を重ね効果と安全性を確認し、2009年から人間に対する臨床研究が始まった。

 心臓にできた血栓が脳に飛び、脳梗塞になった中等度患者12例を対象に実施している。骨髄を25ccあるいは50cc採取して、3~5時間遠心分離器で幹細胞をより分け、その後患者の腕の静脈から注射で体内に戻す。

 先端医療センター(神戸市)再生医療研究部の田口明彦部長に話を聞いた。

「神経幹細胞は7~14日に発生のピークがあるので、治療は発症後10日以内におこないます。血管と神経があるだけでは神経回路はできないので、治療後はリハビリをして手足の運動機能回復を目指します」

 現在11例の治療が終了し、10例が6か月以上経過している。低用量25ccを注射した6人のうち5人が歩けるように、高用量50ccを注射した4人では2人が歩けるようになっている。1名は治療したばかりで結果は不明。いずれも通常の治療では寝たきりか車椅子の患者であり、杖なしで歩けるのは介護の観点からも画期的といえる。運動機能は回復するが、残念ながら失語など高次神経機能の回復は難しい。

(取材・構成/岩城レイ子)

※週刊ポスト2012年11月9日号

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