スポーツ

元SB・山田が6.5億契約金振り返り「そっとして欲しかった」

 ファンの期待を背に球界の扉を叩く者がいれば、惜しまれつつもチームを去る者がいる。弱肉強食のプロ野球を象徴するのが12球団合同トライアウト(11月9日)だ。過去の実績は一切考慮されず、自らの一球、一振りだけが評価される。その舞台に臨んだ男たち、そして熟慮の末、挑まなかった男たちのドラマを追う。

 ここでは、2000年にダイエー(現ソフトバンク)に逆指名(2位)され、今季千葉ロッテに所属した山田秋親(34)について、ノンフィクションライターの柳川悠二氏がレポートする。

 * * *
 2008年オフにソフトバンクを戦力外となり、2009年は四国・九州アイランドリーグ(独立リーグ)の福岡に所属、同年のトライアウトを受けて千葉ロッテと契約し、念願のNPB復帰を果たした山田。

 しかし、それから3シーズン経過後の今オフ、二度目のトライアウトに臨むことになった。彼が歩いてきたいばらの道は、そもそも入団以前から始まっていた。

 2000年のドラフト会議を前に、彼の契約金が球界で申し合わせていた新人の契約時における最高標準額「契約金1億円+出来高5000万円」をはるかに上回る「6億5000万円」だとして、コミッショナーを巻き込む大騒動となった。奇しくも今年、同い年である阿部慎之助(現巨人)の契約金も10億円だったと明るみになった。12年が経った今、山田は暗にその事実を認めた。

「金額はそこまでじゃなかったですけど……。僕や慎之助は、当時の大学球界では頭一つ抜けた存在だった。だからもらって当然のような意識があった。勝手な言い分かもしれませんが、自分の中ではそっとしておいて欲しかったし、素直に野球だけを見て欲しかった」

 申し合わせの金額以上の契約金を手にした選手は、山田だけではないだろう。

「なぜ自分だけが批判されるのか」

 当時山田は、そんな思いに駆られたが、無言を貫く。ついて回った負のイメージを払拭するには、マウンド上での活躍しかない。

 ところが2008年には右肩関節唇の手術を行い、MAX153キロを誇った豪腕はなりを潜めた。独立リーグを経る中で、過去の尊大な自分と決別し、ひたすらグラウンドであえぎ、這いつくばる山田がいた。

「実は、今年が一番状態がいいんです。最高146キロが出ましたから。先発が崩れた時のロングリリーフとかなら、活路を見いだせると思います」

 その言葉は決して強がりではなかった。トライアウトは投手なら打者4人を相手にカウント1-1から投げ、打者は守備につきながら計7打席に立つシート打撃方式が採用される。

 山田は相手打者の胸元にストレートを集め、内野ゴロ2つに1三振1四球に抑えた。だが新天地からの誘いはまだない。

「日本のプロ野球がダメなら、独立リーグでも、海外でもいい。とにかく現役にこだわりたい」

※週刊ポスト2012年11月30日号

関連記事

トピックス

お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」とは
《「ととのった〜!」誕生秘話》『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
連敗中でも大谷翔平は4試合連続本塁打を放つなど打撃好調だが…(時事通信フォト)
大谷翔平が4試合連続HRもロバーツ監督が辛辣コメントの理由 ドジャース「地区2位転落」で補強敢行のパドレスと厳しい争いのなか「ここで手綱を締めたい狙い」との指摘
NEWSポストセブン
伊豆急下田駅に到着された両陛下と愛子さま(時事通信フォト)
《しゃがめってマジで!》“撮り鉄”たちが天皇皇后両陛下のお召し列車に殺到…駅構内は厳戒態勢に JR東日本「トラブルや混乱が発生したとの情報はありません」
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《早穂夫人は広島への想いを投稿》前田健太投手、マイナー移籍にともない妻が現地視察「なかなか来ない場所なので」…夫婦がSNSで匂わせた「古巣への想い」
NEWSポストセブン
2023年ドラフト1位で広島に入団した常廣羽也斗(時事通信)
《1単位とれずに痛恨の再留年》広島カープ・常廣羽也斗投手、現在も青山学院大学に在学中…球団も事実認める「本人にとっては重要なキャリア」とコメント
NEWSポストセブン
芸能生活20周年を迎えたタレントの鈴木あきえさん
《チア時代に甲子園アルプス席で母校を応援》鈴木あきえ、芸能生活21年で“1度だけ引退を考えた過去”「グラビア撮影のたびに水着の面積がちっちゃくなって…」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン