夫婦の日常も様々だが、あらゆる夫婦のエピソードが、漫談家の綾小路きみまろにメールや手紙で続々と寄せられている。今回寄せられたのは、飲料メーカー勤務のご主人(53歳)。奥様(52歳)は女友達のお花屋さんを手伝っていて、健康法は「草履で歩く」です。
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花屋までは歩いて30分、自転車だと10分です。これまでは自転車だった女房が「私、草履で通勤するわ」といい出しました。なんでも、店の顧客でいつも和服姿の奥さんに「草履だと、両足の親指と人差し指の間を鼻緒が刺激して血行がよくなり、女としての機能も高まるんです。ご主人にも喜んでもらえますわよ」と教えられたらしいんです。
「足元なんか誰も見ないから、これでいいわ」と、カーディガン、スカートに足袋、草履を履き、「毎日これで歩いて、あなたをヒーヒーいわせてあげるから楽しみにしててね!」と、投げキッスで出かけた女房。僕がオフィスから戻ると、「草履って慣れないとダメね! 歩きづらくて、結局、行き帰り、タクシーにしちゃったわ」。
次の日の朝は玄関を出た途端、舞い戻ってきて「隣のバァさんって、前々から『人の足元を見る嫌な人』って思ってたけど、私の草履姿を見て『アッ!』っていうのよ」。
「足元」の意味は違うと思うけど、それで?
「『慌て者ね、履き間違えてますよ』っていわれたの。しょうがないから、靴を履いて自転車で行くわ」
元々期待してなかったけど、これじゃヒーヒーいわせてくれる日が来るのは期待できません。
※週刊ポスト2012年12月7日号