国内

選挙をプロレスに喩えた野田氏 民自でシナリオあると示唆か

 日々過熱する各党の選挙戦だがその一方で、今回の選挙戦に奇妙な「不戦敗」が存在することは、あまり指摘されていない。

 いまや「自民党の顔」である石破茂・幹事長の選挙区(鳥取1区)は、石破氏のほかには、共産党と無所属の新人しか立候補していない。民主党が直前になって立候補の擁立を取り止めたからだ。奇妙な不戦敗はほかにもある。日本維新の会は、石原慎太郎・代表の長男で自民党に所属する伸晃氏の東京8区(杉並区)に、対立候補の擁立を取り止めた。

 なぜこんなことが起きたのか。実はこの2つの選挙区こそ、選挙後に向けた民主と維新の「見えない戦い」の最前線なのである。

 本誌『週刊ポスト』の選挙予測では、自民・公明が圧勝するという分析だった。焦点は、いまや2009年総選挙のような自民か民主かという「政権選択」ではなく、自公を中心とした「政権枠組み」の問題に移っている。

 自公以外の各党の関心もここにある。つまり、表向きは自公政権阻止に向けて選挙戦に精を出す一方で、裏ではその政権枠組みに加えてもらおうという皮算用が働いているのだ。

 その典型が民主党である。選挙戦では「自民党は続原発」などと自民批判をするが、実際には選挙後に向けた下準備に余念がない。11月30日、民自公の3党合意によって設置された「社会保障制度改革国民会議」の初会合で、岡田克也・副総理は「政党間に社会保障でいろいろな意見・立場があるが、政権が変わるごとに変われば国民生活の安定にならない」といい、選挙後も「3党連携」を進めていくことをアピールした。

 一方、石原代表・橋下代表代行の二枚看板で既成政党批判を続けてきたはずの維新の会も、自民との連立への色気が隠せない。

 石原氏は公示日の12月4日昼、大阪の大聴衆を前に「自民党が続けてきた政治を民主党が続けてやったらぼろぼろになった」と批判をぶったが、その夜のテレビ出演では一転して、自民から連立呼びかけがあった場合、「それ(連立)はできると思う」と明言した。

 BS11報道局長でジャーナリストの鈴木哲夫氏が、両党の動きを分析する。

「民主も維新も表では自民を攻撃しているが、本音では組みたくてしょうがない。まず民主党は『純化路線』を進めていますが、それによって自ずと消費税や原発政策で自民との政策的な差がなくなっている。野田氏や岡田氏、前原氏といった執行部は軒並み自民との連立派です。

 また民主は、未来の小沢一郎氏の選挙区(岩手4区)に、岩手出身の党職員・及川敏章氏を擁立している。彼は小沢氏を結婚式の主賓に呼ぶほどの関係だったから、小沢氏と決別するという自民へのアピールになる。純化路線そのものが、自民への擦り寄りなんです」

 一方の維新も、自民との水面下の交渉に動き出した。

「選挙戦のさなか、平沼赳夫氏、園田博之氏、片山虎之助氏ら旧たちあがれ日本のメンバーが、自民側に接触を図っているとの情報がある。また、元自民の松井一郎・大阪府知事の周辺も、以前から安倍氏とは一緒にやりたいと公言してきた。幹部らは、自民と組みたいという本音を隠していない」(同前)

 そうした民主と維新の思惑が形になったのが、2つの「不戦敗」である。民主党にとって石破氏は、「民自公の3党合意を維持」と選挙中も繰り返している「自公民連立派」の重鎮であり、絶対に敵に回してはならない相手だ。同様に維新にとって伸晃氏は、父子ラインによって「自公維」実現に向けたパイプ役を担う存在である。つまり、民主と維新は、どちらも選挙後の政権枠組みに向けて、「連立交渉の窓口を痛めつけない」というサインを自民に送ったのではないか。

 そうだとすれば、選挙を戦うはずの党同士による談合であり、有権者から選択肢を選ぶ権利を奪う行為にほかならない。野田氏はスポーツ紙との会見で、安倍自民との戦いをプロレスに喩え、「安倍さんの技をいっぱい受けて、最後はバックドロップで決めに入る」と豪語したが、本当は「選挙戦では民自のシナリオができている」といいたかったのかもしれない。

※週刊ポスト2012年12月21・28日号

関連記事

トピックス

自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
連敗中でも大谷翔平は4試合連続本塁打を放つなど打撃好調だが…(時事通信フォト)
大谷翔平が4試合連続HRもロバーツ監督が辛辣コメントの理由 ドジャース「地区2位転落」で補強敢行のパドレスと厳しい争いのなか「ここで手綱を締めたい狙い」との指摘
NEWSポストセブン
伊豆急下田駅に到着された両陛下と愛子さま(時事通信フォト)
《しゃがめってマジで!》“撮り鉄”たちが天皇皇后両陛下のお召し列車に殺到…駅構内は厳戒態勢に JR東日本「トラブルや混乱が発生したとの情報はありません」
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《早穂夫人は広島への想いを投稿》前田健太投手、マイナー移籍にともない妻が現地視察「なかなか来ない場所なので」…夫婦がSNSで匂わせた「古巣への想い」
NEWSポストセブン
2023年ドラフト1位で広島に入団した常廣羽也斗(時事通信)
《1単位とれずに痛恨の再留年》広島カープ・常廣羽也斗投手、現在も青山学院大学に在学中…球団も事実認める「本人にとっては重要なキャリア」とコメント
NEWSポストセブン
芸能生活20周年を迎えたタレントの鈴木あきえさん
《チア時代に甲子園アルプス席で母校を応援》鈴木あきえ、芸能生活21年で“1度だけ引退を考えた過去”「グラビア撮影のたびに水着の面積がちっちゃくなって…」
NEWSポストセブン
釜本邦茂さん
【追悼】釜本邦茂さんが語っていた“母への感謝” 「陸上の五輪候補選手だった母がサッカーを続けさせてくれた」
週刊ポスト
有田哲平がMCを務める『世界で一番怖い答え』(番組公式HPより)
《昭和には“夏の風物詩”》令和の今、テレビで“怖い話”が再燃する背景 ネットの怪談ブームが追い風か 
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《過激すぎる》イギリス公共放送が制作した金髪美女インフルエンサー(26)の密着番組、スポンサーが異例の抗議「自社製品と関連づけられたくない」 
NEWSポストセブン
悠仁さまに関心を寄せるのは日本人だけではない(時事通信フォト)
〈悠仁親王の直接の先輩が質問に何でも答えます!〉中国SNSに現れた“筑波大の先輩”名乗る中国人留学生が「投稿全削除」のワケ《中国で炎上》
週刊ポスト