日本プロ野球黎明期に、グラウンドを彩った選手たちが、もし現代のプロ野球に甦ったら――? そんな夢のようなテーマを元に、往年の名選手に話を聞いた。西武ライオンズの元エース・東尾修氏は、「今の打者なら無理して内角を攻める必要もない」と語る。
「狭い球場だからこそ、投球術が必要だった。僕の場合は、門田(博光)さんや野村(克也)さんといったいい打者が揃っていて、彼らを打ち取るために、左右ギリギリのコーナーを突く投球術が必要だった。
相手が避けるのもうまかったから、こちらも思い切っていけた。内角ギリギリを突くと、相手は次にスライダーを予測して、打席で1歩前に出てくる。だからもう1球内角に投げてのけぞらせる。たまに力んでぶつけてしまうこともあったけど、そうしないと自分が打たれるから死活問題なんです」
通算与死球記録165個を持つ東尾氏。だがそれは、良い打者が相手だったからこそのものだった。
「一度、近鉄の若い選手にたまたまぶつけてしまったことがある。その時、彼がマウンド上の僕を睨んできた。その時にいったものね、“お前に当てて損するのはこっちや。そんな馬鹿なことはせんわい”と。こっちもギリギリを投げる能力があり、相手もそれを避けられる技術があるから成立したわけです。若い頃の清原(和博)に、“お前は避け方が下手なんだから、余分な挑発をするんじゃない”といったものですよ。
ただ、最近の選手を見てると、そんな勝負に行く必要もないだろうな、と思います。データと確率だけで待っている選手に、無理して内角を攻めるリスクを背負う必要もない。今投げれば、死球王の汚名も返上できると思いますよ」
※週刊ポスト2013年1月1・11日号