アルジェリア人質事件で犠牲となった10人の日本人のなかには、日揮の社員以外の人が半数いる。技術者として世界を渡り歩く協力会社や派遣会社の社員だ。
「彼らは全員、高い技術と経験をもったその道のプロ。それゆえ、今回犠牲になったような、50代~70代前半のベテラン技術者が多い。給料は月収100万円に達する場合も多いのでは。それでも、日本での快適な生活とはほど遠い、不便でしかも危険を伴う環境で働くだけに、“男気”というか、使命感に燃えている人ばかり。でなければ決して務まらない仕事なんです」(日揮OBのひとり)
その日常はといえば、「朝6時頃に送迎バスで居住区域を出発してプラントに向かい、午後5時頃に戻ってくる。休みはイスラム圏の休日にあわせて金曜日が基本。4か月に2週間の長期休暇があり、それを利用して日本に帰ってくることが多い」(日揮関係者)という。
緒方弘昭さん(享年57)は、協力会社社員のひとり。佐賀県武雄市に居を構え、3人の子供は既に独立し、妻・由利子さん(55才)と愛犬と暮らしていた。もともとは大工で、日揮の協力会社に登録し、12年ほど前から海外の工事現場で働くようになった。1年や2年の長期出張もこなし、現地スタッフの監督などを担当。指導ぶりやスタッフをまとめる力には定評があったという。小中学校時代の同級生の大宅輝記さんはこう語る。
「3か月前に会ったのが最後だった。こっちに帰って来るたびに一緒に酒を飲んだりしていた。仕事のことよりも子供の話をようしとったな。やっぱり遠いところに離れておるけん、寂しかったっちゃなか?
海外に行きだした頃は、『あっちは給料が高い。結構よかよ。こっちの2、3倍はある』とか『日本人だけが寝泊まりしている宿舎があって、そこでは家政婦がついとって、洗濯物やら何やら全部してくれるから、炊事、洗濯は自分でせんでもよか』と言っていたこともあった。奥さんも寂しかったやろうけど、もう単身赴任が長かったから、慣れっこになってたのじゃないかなぁ」
そんな緒方さんだが、昨年11月中旬にアルジェリアに発った際に「今回は行きたくなかね」と由利子さんに漏らしていたという。プラントでの仕事はこれまで何度もこなし、慣れていたはずの緒方さん。アルジェリアに3か月滞在し、2月中旬に帰国することになっていたが、何かの虫の知らせがあったのだろうか。由利子さんは今回の悲報に「覚悟していました」と気丈に語った。
※女性セブン2013年2月14日号