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マサイ族は老後に流動食をとれるよう5歳で下の前歯を2本抜く

 ベストセラー『がんばらない』の著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、チェルノブイリの子供たちへの医療支援などに取り組むとともに、震災後は被災地をサポートする活動を行っている。その鎌田氏が、訪れたタンザニアでみたマサイ族の生活と人生について報告する。

 * * *
 マサイの女たちは元気だ。家も作れば、水汲みも女たちの仕事だ。僕たちが行った村では、15キロメートル離れた場所から水を汲んで、水の入ったバケツを頭に乗せて運んできていた。この村は、いろいろな家族が集まっていると思っていたが、一夫多妻のひとつの家族で構成されているとのこと。リーダーは10人の妻を持ち、それぞれに子どもや孫がいる。

 村には学校もある。マサイの言葉とスワヒリ語、簡単な英語を教えていた。びっくりしたのは、子どもたちや大人も、下の前歯がなかったこと。5歳になると、この2本を抜くのが慣習だそう。病気をしたとき、年老いてご飯が食べられなくなったとき、この2本の歯の隙間から、薬草の流動食や牛の血を入れて病気を治すのだという。

 マサイ族の多くは、50~55歳で亡くなる。そして少し前まで、死者を風葬していたという。獣たちのいる岩の頂や森に遺体を置き、鳥や獣たちに食べさせる風習だ。

 自然に還る――マサイの美意識の表れでもあった。今では、亡くなると土に埋め、そこに石を置くか、あるいは木を植えて、亡くなった後も忘れないようにしているとか。

 生きる規範がはっきりしているから、ひとりひとりの目がイキイキとしている。哲学のある生き方をしていると、佇まいもまた美しくなると感じた。

※週刊ポスト2013年2月15日号

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