【書評】『20XX年 世界大恐慌の足音』(高田創/東洋経済新報社/1890円)
【評者】森永卓郎(エコノミスト)
バブルが崩壊して資産価格が急落すると、バランスシート調整が必要になる。資産の価値が減っても、負債は減らないからだ。例えば、買った家が暴落しても、住宅ローンは負けてもらえない。そんなときは、ひたすら節約して、コツコツと返済に励むしかない。
これは企業の借金でも同じだ。それでも返せればましで、融資が焦げ付くこともある。そうなると、金融機関が不良債権を抱えて傷つく。さらに、その金融機関を救済するために税負担が生ずる。つまり、バランスシート調整というのは、長期間の苦行を強いるのだ。
日本はバブル崩壊後、一貫してこの修行生活を続けてきた。ところが、2007年以降の欧米でも、日本が直面したのと酷似したバランスシート調整が発生している。量的金融緩和が行われ、国債バブルと言ってもよいほどの超低金利が続くのも同じだ。まさに、欧米の日本化現象が発生しているのだ。
だから、日本と同じまでは行かなくても、欧米のバランスシート調整はある程度長引かざるを得ない。そのなかで、バランスシート調整の先駆者として、すでに不況を生き抜く筋肉質の体を作り上げた日本には、今後成長するための大きなチャンスが訪れているというのが、本書の主張だ。
読了して、正直、考え込んでしまった。著者は、シンクタンクのエコノミストらしく豊富なデータを分かりやすい形で示しているため、主張には説得力がある。ただ、本書が書かれたのは安倍政権発足直前なので、アベノミクスに対する評価が書かれていない。
おそらく、アベノミクスがやろうとしているのは、資産価格を上げることによるバランスシート調整だ。資産価格が下落しても、それを政策的に戻してやれば何も問題がなくなる。すでに株価は上がりはじめており、このまま行けば地価も上がり出すだろう。
そうなれば、痛みは消えてしまう。欧米も考えていることは同じではないか。著者は、そうしたやり方を批判しそうな気がする。著者のアベノミクスの評価を次回作で読んでみたい。
※週刊ポスト2013年3月8日号