国際情報

韓国 渤海を確固たる韓国史にしようと「官民総動員体制」に

 中韓の争いは古代史にも及ぶ。現在の北朝鮮から中国東北部の一部の古代史が中国の歴史なのか韓国の歴史なのかでもめている。しかも近い将来、北朝鮮の領有権をめぐる争いに発展する可能性がある。韓国在住ライターの平井敏晴氏が指摘する。

 * * *
 高句麗(紀元前37~668年)、渤海(698~926年)、万里の長城現在の中韓が真っ向からぶつかりあう歴史問題の3点セットだ。特に高句麗と渤海は、中国が進める歴史研究「東北工程」において中国史のなかの「地方政権」だと宣言され、韓国側から激烈な抗議が噴出した。
 
「東北工程」は、神話時代から現代まで満洲の歴史を中国史の文脈で読み込むため、中国政府が2002年から始めた。
 
 だがその研究結果は、中国が将来、朝鮮半島の北半分の領有権を主張する根拠ともなりかねないため、南北統一を見据える韓国にとって到底認められるものではない。
 
 韓国には疑ってはならない“常識”がある。それは、高句麗とは7世紀後半まで朝鮮半島の北半分と満洲を支配し、最後の都を平壌に置いた朝鮮民族の古代王朝であり、渤海とはその末裔が満洲に逃れ建国したというものだ。
 
 その歴史観を海外にPRするために、韓国政府は2005年に東北アジア歴史財団を設置した。ホームページの中で、渤海は唐より冊封され朝貢関係にあったものの、別の年号を導入して皇帝国家を標榜していたことを理由に、「独立国家」であったと主張している。
 
 しかし、朝鮮民族が渤海を自国の歴史として意識したのは李氏朝鮮(1392~1910年)末期からだ。自国の歴史に組み込んでからまだ日が浅いため、確固たる韓国史にしようと今まさに官民総動員体制がとられている。
 
 たとえば2012年1月12日付東亜日報の社説は、渤海では中国には見られないオンドル(床下暖房)が使用され、墳墓も高句麗式であり、これこそ渤海が高句麗から分かれたことを示す証拠の1つだとした。また、建国者の大祚栄がツングース系の韃靼族だという説は日本でも広く受け入れられているが、それを具体的な根拠を一切挙げずに否定している。2012年11月29日付中央日報では、韓国政府公認の大祚栄の肖像画が披露された。
 
 韓国での東北工程問題をさらに激化させたのが、万里の長城の長さがそれまでの2倍を超えて2万km及ぶとする、昨年6月の中国政府による発表だった。前述の東北アジア歴史財団が入手した中国側の非公式資料には、高句麗や高麗が建設した千里長城(遼寧省大連付近~内蒙古)が万里の長城に含まれていたのだ。
 
 革新系の京郷新聞は「高句麗と渤海のあった中国東北三省の一帯が、古代から中国の領土だったことを主張しようとする下心がある」と激しく批判した(2012年6月7日付)。

※SAPIO2013年3月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

AIの技術で遭遇リスクを可視化する「クマ遭遇AI予測マップ」
AIを活用し遭遇リスクを可視化した「クマ遭遇AI予測マップ」から見えてくるもの 遭遇確率が高いのは「山と川に挟まれた住宅周辺」、“過疎化”も重要なキーワードに
週刊ポスト
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト