ライフ

堺雅人主演平松恵美子初監督作 「涙の使い方がウマいんだ!」評

 田沼雄一氏は映画評論家。主な著書に『映画を旅する』『野球映画超シュミ的コーサツ』などがある。その田沼氏が、今回は、堺雅人の主演最新作『ひまわりと子犬の7日間』をレビューする。

 * * *
 長年、山田洋次監督のもとで監督修行に励んできた平松恵美子の初監督作品。製作・配給の松竹映画にとってはかの大女優・田中絹代に継ぐ2人目で、『お吟さま』(1962年)以来、半世紀ぶりの女流監督の誕生となった。平松は、山田監督の『学校』シリーズ(1993年~2000年)や『たそがれ清兵衛』(2002年)などに監督助手で参加。山田監督の新作『東京家族』(2013年)では共同脚本を手がけている。

 2007年に宮崎県で実際にあった野犬をめぐる出来事の映画化。老夫婦に可愛がられていた和犬がある事情から放浪犬となり、人を見れば噛みつきそうな形相で激しく吠えるようになる。老夫婦との静かな日々を描写する冒頭のくだりが素晴らしい。老夫婦と野良仕事に出る、母親犬といっしょに散歩する……セリフなし、絵本を読んでいるような気分。女性監督らしい筆致。

 やがて和犬は3匹の子犬といっしょに保健所に捕獲される。映画はここから本筋に入る。人間と犬のふれあいを描いてきた映画は多くあるが、この映画はこれまでにない描写で印象に強く残る。和犬はいつも険しい形相、噛みつきそうな顔で人間に向き合う。ドッグトレーナーの演技指導は大変だったと思う。一貫して不機嫌な表情を浮かべている和犬の演技に感心する。

 それでもやはり女性監督である。観ていて辛くなるような場面や痛みを感じさせる設定は描写しない。映画を観ている人への配慮である。このあたりが山田監督から受け継いだ心のこもった演出である。

 涙の使い方がウマいんだ!

 映画前半と終盤の2度、見事な劇的効果を発揮する。とくに終盤の涙の使い方は、まるで外国映画を観ているようなファンタスティックな優しさを感じさせる。平松監督はいろいろな映画の涙の場面を勉強したのだろう。努力の成果が名場面を生んだ。

※週刊ポスト2013年4月5日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

被害男性は生前、社長と揉めていたという
【青森県七戸町死体遺棄事件】近隣住民が見ていた被害者男性が乗る“トラックの謎” 逮捕の社長は「赤いチェイサーに日本刀」
NEWSポストセブン
体調を見極めながらの公務へのお出ましだという(4月、東京・清瀬市。写真/JMPA)
体調不調が長引く紀子さま、宮内庁病院は「1500万円分の薬」を購入 “皇室のかかりつけ医”に炎症性腸疾患のスペシャリストが着任
女性セブン
学習院初等科時代から山本さん(右)と共にチェロを演奏され来た(写真は2017年4月、東京・豊島区。写真/JMPA)
愛子さま、早逝の親友チェリストの「追悼コンサート」をご鑑賞 ステージには木村拓哉の長女Cocomiの姿
女性セブン
1980年にフジテレビに入社した山村美智さんが新人時代を振り返る
元フジテレビ・山村美智さんが振り返る新人アナウンサー社員時代 「雨」と「飴」の発音で苦労、同期には黒岩祐治・神奈川県知事も
週刊ポスト
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
【視聴率『愛の不時着』超え】韓国で大ヒット『涙の女王』 余命宣告、記憶喪失、復讐など“韓国ドラマの王道”のオンパレード、 華やかな衣装にも注目
【視聴率『愛の不時着』超え】韓国で大ヒット『涙の女王』 余命宣告、記憶喪失、復讐など“韓国ドラマの王道”のオンパレード、 華やかな衣装にも注目
女性セブン
公式X(旧Twitter)アカウントを開設した氷川きよし(インスタグラムより)
《再始動》事務所独立の氷川きよしが公式Xアカウントを開設 芸名は継続の裏で手放した「過去」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
女性セブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
「ホテルやネカフェを転々」NHK・林田理沙アナ、一般男性と離婚していた「局内でも心配の声あがる」
NEWSポストセブン
タイトルを狙うライバルたちが続々登場(共同通信社)
藤井聡太八冠に闘志を燃やす同世代棋士たちの包囲網 「大泣きさせた因縁の同級生」「宣戦布告した最年少プロ棋士」…“逆襲”に沸く将棋界
女性セブン