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天童荒太氏 原作映画不発にも「数字ではかれないものある」

 松田哲夫氏は1947年生まれ。編集者(元筑摩書房専務取締役)。書評家。浅田彰『逃走論』、赤瀬川源平『老人力』などの話題作を編集。1996年からTBS系テレビ『王様のブランチ』・書籍コーナーのコメンテーターを12年半務めた松田氏が、天童荒太氏との交友をつづる。

 * * *
 二〇〇七年一月、天童荒太さんとぼくは高崎を訪れ、映画『包帯クラブ』の撮影風景を見学しロケ地を歩いてみた。その帰り道、天童さんは、「彼らの演技を見たり、ロケ地を回っていると、ぼく自身が挑発を受けているような感じがする」と嬉しそうに話していた。
 
 四月末になると、初号試写が行われた。映画が始まると、予想通り、「ワラ」「シオ」「ディノ」とお互いに呼び合う姿を見ているだけでウルウル、小説と同じ台詞にウルウル。後で、隣席の天童さんに「松田さん、ずっと泣いてましたね」と言われてしまった。
 
 それからは映画公開に向けての宣伝・パブリシティ活動が急ピッチで進められていった。「王様のブランチ」では本のコーナーはもちろん、映画のコーナーでもとりあげてくれた。TBSの植田博樹プロデューサーは、「映写機担いで、高校行って上映して廻りたい」と話していたが、その夢を実現しようと、「試写会を学校で開きませんか?」という告知をした。
 
 応募してきた全国の学校の中から、神奈川県立大磯高校が選ばれ、ロケが挙行された。夕闇が迫るころ、約三百名の高校生の前に、LiLiCoさんや谷原章介さんが登場して雰囲気を盛り上げた後、映画が上映された。
 
 中庭に設営された大きなスクリーンの前に蛾が飛んでいたり、空を見上げると、遠くに飛行機が飛んでいたり、野趣に富んだ映画会を満喫できた。この日の様子は、九月はじめの「ブランチ」で映画コーナーの特別バージョンとして流された。
 
 九月十五日、映画は公開された。作品の評価は高かったが、残念ながら興行成績は芳しくなかった。オフィスクレッシェンドの神康幸さん、「ブランチ」の中野匡人さんから「天童さんに申し訳ない」というお詫びの言葉が届いた。すると天童さんは、こう応えた。
 
「謝ることはない。原作者が誇りに思える映画なんて、そうそう作られるものではありません。……数字はもちろん大事ですが、数字でははかれないものもあります。大丈夫です。我々のクラブは、胸の張れる仕事をしました」

※週刊ポスト2013年4月26日号

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