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今の日本人 デフレのトラウマでインフレの怖さを忘れている

 アベノミクスによって円安が進めば株価が上がる。株価が上がれば景気が上向く──まさに「円安バンザイ」ムード一色だが、今こそ考えておくべきは「このまま円安が進んでいった場合に何が起きるか」である。

 円安による最悪のシナリオは、1ドル=120円を軽々と突破し、急激に暴落してしまうことだ。

 そこで思い出すのが、ベストセラー『日本がアルゼンチン・タンゴを踊る日』(ベンジャミン・フルフォード著)だ。この本は、「日本の未来が2002年に通貨危機を迎えたアルゼンチンのような状態になる」と書いて大きな波紋を呼んだ。

 かつてのアルゼンチンは国民1人当たりのGDPが世界4位と、南米トップの経済力を誇った。だが、インフレ政策の麻薬にはまる。カネを無計画に刷ってバラマキ政策を重ねた結果、1999年には500%のハイパーインフレと累積債務問題に直面。2001年に政府支出を大幅に削ったことで労働組合がゼネストを敢行し、通貨と国債の暴落が発生した。

 まさに、安倍政権がアベノミクスによる財政出動に際して「国土強靱化」を掲げてハコ物建設を推進している一方で、財務省は消費増税に代表される財政健全化をこの機に乗じて実現しようと狙っている。基礎的な国力の違いはあるにせよ、ジャブジャブにした後でいきなり蛇口を締めるという政策は、アルゼンチンと同じ道を辿る危険を内包しているといえるかもしれない。

 経済アナリストの朝倉慶氏は危機感を募らせる。

「相場は勢いがつきますから、120円を超えるような展開になると一気に円安に弾みがつきます。そうなると160円、200円と思わぬ展開が訪れても不思議はない。現にユーロはリーマンショック後に、1ユーロ=170円から110円近くまで一気に暴落しました。主要通貨のユーロがこのような動きをしたのですから円でも似たような変動が十分に起こり得るのです。

 今の日本人は、デフレのデメリットばかりがトラウマとなり、インフレの怖さを忘れている。物価上昇が異常な段階に突入しても、それを察知する能力を失ってしまっています」

 朝倉氏は、安倍政権が明示する2%の物価高が実現した時が、円安の危険水域突破の始まりだと示した。

「政府や日銀をしても制御は不可能でしょう。市場に介入するにしても、ドルを売って円を買わなきゃならない。だけど、日本は米国債でしかドルをもっていないわけで、これを売るには米国の許可が必要です」

 アルゼンチンは2001年に対外債務の返済不履行宣言(デフォルト)を発する事態に陥っている。失業率は20%を超え、医療や食糧物資の深刻な困窮、銀行の預金封鎖、国民の海外流出……国力の低下は眼を覆うばかりとなってしまった。

※週刊ポスト2013年4月26日号

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